「ウィンスレットとローナン、世代を代表する女優2人の気高く美しい共演」アンモナイトの目覚め 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
ウィンスレットとローナン、世代を代表する女優2人の気高く美しい共演
40代の英女優ケイト・ウィンスレットと、20代のアイルランド女優シアーシャ・ローナン。ともに映画祭・映画賞常連であり、世代を代表する演技派というだけでなく、強い女性キャラクターをたびたび演じてきた点でも共通する(ここでの“強い”はフィジカルな面ではなくメンタルの傾向を指し、自立した女性や、自分らしい生き方を模索するヒロインという意味)。そんな2人が、19世紀イギリスの田舎町(当然ながら同性愛者が白い目で見られる時代)で、心の奥底に埋まっていた真実の愛に目覚める女性同士に扮するというだけでも感慨深いものがある。
ウィンスレットが演じるのは実在した古生物学者メアリー。ただし女性の地位が低かった時代、子供の頃に貴重な魚竜の化石の発見で注目されたものの、今では老母とわびしい2人暮らしで、海辺で発掘したアンモナイトの化石を土産品として売りどうにか生計を立てている。そんなメアリーのもとへ、裕福な化石収集家の夫に伴われてやってきたのが、ローナン扮する上流階級の可憐なシャーロット。モラハラ気味の夫との間に愛情はなく、籠の中の鳥(あるいはガラスコップの中の蛾)のような不自由と孤独を感じている。
年齢も生きてきた環境もかけ離れた2人が、反発、信頼、友情、嫉妬などさまざまな感情の揺らぎを経て、互いを求めあうようになるまでを、ウィンスレットとローナンが実に繊細に、そして時に大胆に表現している。岩場の斜面からの滑落、野外での放尿、ピアノ演奏、そしてラブシーンと、難しい場面もボディーダブルなしですべて2人が演じたといい、役者魂が伝わってくる逸話だ。自然光にこだわった撮影も素晴らしく、夜の屋内でのランプやろうそくの灯りで陰影が強調された映像などはキューブリックの「バリー・リンドン」を想起させもし、全編にわたり墨絵のようにしみじみと味わい深い美しさが印象に残った。
ただ本作がちょっと不幸なのは、製作がほぼ同時時期ながら公開年で先行されたフランス映画「燃ゆる女の肖像」と、題材がかなり似通ってしまったことだ。ジェンダー平等や多様性尊重の意識がない百年以上前の時代、専門職の苦労人とブルジョア娘の組み合わせ、海辺のロケーション等々。どちらもオリジナル脚本なので、偶然似てしまったのだろうが、「アデル、ブルーは熱い色」が2013年のカンヌでパルムドールを獲って以降、女性の同性愛を描く映画が賞を狙いやすく(したがって製作費も集まりやすく)なったという事情に加え、近年のMeToo運動など女性の地位向上やダイバーシティ重視の流れも影響していると思われる。