劇場公開日 2021年7月2日 PROMOTION

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シンプルな情熱 : 特集

2021年6月28日更新

ある女性が味わった“官能の実体験”…秘めた情事に、
あなたは何を感じるか? 性と解放描く熱烈な問題作

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昨年の9月以降、私は、ある男性を待つこと以外、何ひとつしなくなった――。

破滅的な美しさを湛えたフランス映画「シンプルな情熱」が、7月2日に日本公開を迎える。原作は、ノーベル文学賞候補にも名を連ねた作家アニー・エルノーによる同名小説。自身の赤裸々な実体験が綴られ、日本でも小池真理子、林真理子、山田詠美ら、時代をリードする女流作家たちに熱く支持され、大反響を巻き起こした“問題作”だ。

描かれるのは、ある女性の身に起こった“年下男性との官能の日々”。春の雪崩のように宿命的な恋、その行方を見届けたとき、あなたの心と身体は感じたことのないショックに貫かれるだろう。

この特集では、本作の魅力を「物語とテーマ」「最注目ポイント/セルゲイ・ポルーニン」「レビュー」の3つに分けて紹介していく。


【予告編】

【物語】既婚・年下男性と、恋に落ちた――
ある女性が愛と性のみに生きた、情熱的な数カ月間

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●あらすじ

パリの大学で文学を教える女性エレーヌは、ある男性のことばかりを考えていた。名前はアレクサンドル。パーティで出会った、年下で既婚者のロシア人だ。職業はロシア大使館の要人警護。ミステリアスな魅力に惹かれ、彼女はたちまち恋に落ちる――。

彼と出会ってから今日まで、一人息子と過ごし、仕事をし、友だちと映画館へ行った。しかし何もかもはどこか空虚で、アレクサンドルと会い、彼の瞳を見て抱き合うこと以外は、何の意味もなくなってしまった。

友人のアニタからは「のめり込まないで。いずれロシアに帰る男よ」と忠告されていた。けれども、エレーヌには今の恋を生きることがすべてだった。

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アレクサンドルからの電話をひたすら待ちわびる日々で、ついに彼から「次にいつ会えるかわからない。3週間フランスを離れる」と告げられる。その不在に耐えられなくなったエレーヌは……。

エレーヌ役には、フランスのトップ女優の階段を駆け上がるレティシア・ドッシュ(「若い女」など)。さらにアレクサンドル役は、バレエ界の反逆者と称される天才セルゲイ・ポルーニンが務め“ふたつの肉体”を通して“魂が一つに結ばれる”ラブシーンを、途方もなく美しく官能的に体現している。

メガホンをとったのは、レバノン出身の女性監督ダニエル・アービッド。“女性としての実感”を大事にしつつ、原作の持つスピリットを繊細かつ大胆にアレンジ。2020年のカンヌ国際映画祭に出品された際には、鮮烈な物語と禁断の描写が各メディアから絶賛を浴びた。

そして予告編、エンディングで流れるのは、ヤズーの代表曲をフライング・ピケッツがカバーした「Only You」。ほかにもラブソングのヒットナンバーの数々が、恋に揺れるエレーヌの心情を代弁している。

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●“性の悦び”は人生の解放なのか? あえて“女性の官能”にスポットを当てた問題作

まずもって、エレーヌ役ドッシュとアレクサンドル役ポルーニンの裸体が全面に映し出されるセックス・シーンが、どうしようもなく強烈に印象に残る。

ところが、そうした官能的なシークエンスは、ただ単に性的欲求を刺激するのではない。宗教画を思わせる芸術の妙味を湛えており、見れば瞬く間に心が奪われるだろう。そして次の瞬間、体の奥底から熱くたぎる何かが込み上げてくる。人間ならば誰もが逃れようのない、身を焦がすような何かが――。

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そしてもうひとつ重要なことがある。それは「妻帯者との秘密の情事」。日本でこのような関係が明るみになれば、社会的な制裁を受け、ともすれば非難の対象となる。

しかしフランスが舞台の本作では、シングルマザーの主人公にとってアレクサンドルとの情事は結婚生活とは異なり、束縛も義務もない自由な恋愛である。さらに相手との未来もないが故に、その秘めた刹那の官能が一層燃え上がる――という描かれ方をしている。

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映画は「昼顔」「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」「失楽園」などを彷彿させるモチーフとテーマが混淆し、やがて「女性にとっての人生の解放とは?」という切実な問いが立ち現れる。時間を追うごとに、観客の価値観に強く訴えかけてくるのだ。

さて、主人公の行動に賛否は当然あるだろう。あなたは本作を頭で観るか、それとも心で観るか――。


【注目】アレクサンドル役、セルゲイ・ポルーニン
あまりにセンセーショナルな“おとぎ話的肉体美”

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自分の都合がいいときに、情事のためだけに、気まぐれに家を訪れる男。そんな身勝手な男を、主人公はなぜ拒めないのか? それは、ひとえに相手が“世界一優雅な野獣”セルゲイ・ポルーニンだから――!


●肉体美は「さすが」としか言いようがない、唯一無二の芸術作品

映画開始後3分ほどで始まる濃厚なラブシーンで目に飛び込んでくるのは、彫刻のごとき美マッチョボディと、全身を覆うタトゥー。肩甲骨が際立つ逆三角形の美しい背中、キュッと引き締まったヒップライン、優雅でしなやかな上腕三頭筋。

その究極の肉体美は、トップバレエダンサーであるポルーニンが、妥協のないトレーニングで作り上げた唯一無二の芸術作品だ。劇中の「ロシア大使館の要人警護員×既婚者×年下イケメン」というキャラ設定も霞む、ポルーニンの圧倒的存在感はさすがとしか言いようがない。

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●瞳は湖水のように冷たい…情熱とよそよそしさの間で交わす“チェーン越しのキス”は必見

年下の恋人との逢瀬にのめり込んでいく主人公とは対照的に、体を重ねるとき以外は常に距離を取ろうとするポルーニン=アレクサンドル(劇中の役名)。「君が欲しい」「こんなに感じるのは君だけだ」と情熱的に求めておきながら、瞳は湖水のように冷たく、どこかよそよそしい。そうかと思えば、セクシーな服を身に付けた主人公に、「そんな恰好で外に出るな!」と束縛するシーンも。

ジェットコースターのような恋に疲れた主人公が、関係に終止符を打とうと、ドアにチェーンをかけて逢瀬を拒むシーンがある。しかし……その瞬間、ポルーニンの放つ色香は圧巻の一言。「入れてくれないのか?」と悩まし気な表情を浮かべて、強引にキスを迫り、情熱的にボディタッチ! その誘惑テクニックに、主人公もろとも全面降伏させられること請け合いだ。

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年下のイケメンに弄ばれてボロボロになるなんてことは、実生活では遠慮したいところだが、映画で疑似体験する分には刺激的。ポルーニンを知らなくても、ジョナサン・リース=マイヤーズや、ベン・ウィショー、ギャスパー・ウリエルのような耽美系イケメンにハマった経験がある人なら、間違いなく刺さるはず。

危険で濃密な大人の恋愛を、心ゆくまでご堪能あれ。


【編集部レビュー】常に繊細な情感が伝わる芸術的秀作
「抑えきれないエロス 彼女は新たな自分を発見する」

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パリ郊外の瀟洒な一軒家、かわいいひとり息子、大学講師という社会的地位と教養、映画やカフェに行く気の合う女友達、そして引き締まった肉体と知的な美貌を持つエレーヌ。はたから見れば、十二分に幸せであるように見える彼女だが、ある若い男との出会いで、それらは全く空虚なものとなる。

彼からの連絡と訪問を待ち、脱がされるためだけの服を選ぶ日々。現実の生活をなおざりにし、たった数時間だけの逢瀬に全身全霊を傾けるのだ。共通の趣味や弾む会話、どこかへ連れ立ってのデートもなく、普段朝食に何を食べているのかも知らない男なのに。

社会的な役割やしがらみから離れ、互いの肉体を強く求め合い、離れがたい思いになるのもひとつの愛の形であると、燃え上がるような非言語的コミュニケーションをリアリティ溢れる映像で提示し、人間の身体性の重要さを突き付ける。

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抑えきれないエロスを通し、エレーヌは新たな自分を発見するのだ。映画が始まって数分後にはベッドシーン、その後も激しい情交の場面が繰り返されるが、安っぽいポルノには見えず、常に繊細な情感が伝わってくるのは、やはりふたりが心身共に繋がっているからなのだろう。

意中の相手からの着信やメッセージがないかついついスマホをチェックしてしまう、自分と似たような状況をテーマにした恋愛小説や映画が気になってしまう……など、恋をしたことがある人なら誰もが共感してしまうような描写も秀逸だ。

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また、将来への展望もなく、いつかは自分の元を去ってしまう相手とただただ会いたい、というシンプルな情熱に突き動かされた打算のない関係だからこそ、愛の純度が高まっているようにも見える。そして、女はママにも、娼婦のように大胆にもなれるという人間の多面性も映し出す。

関係の終わりを予感すると、ベッドで寝込み、外出先では幻影が見え、彼と同じ空気を吸いたいからとロシアにまで赴くエレーヌ。正に刹那の恋がもたらした病であるが、カウンセラーに「彼は私と世界と結びつけてくれた」と告白し、新たな日々の一歩を踏み出す。そして、儚い情熱の日々を、悲恋や破滅ではない人生の大きなギフトととして捉える、成熟した女性として描かれる。原作を愛読し、メガホンをとったのが、中東レバノン出身の女性監督であることも興味深い。

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相手役のアレクサンドルは、存在そのものが芸術作品といっても過言ではない、世界的ダンサーのセルゲイ・ポルーニンが演じている。実際のところ、原作者が愛したアレクサンドルはこのように美しい男だったのだろうか? 映画の後半には、アレクサンドルとは全く異なる、“お父さん”の雰囲気を湛えたエレーヌの元夫が登場する。

彼女は、かつては元夫とも情熱的な時を過ごしたのだろうか? 誰でも濃密な恋愛の最中には、どんな相手にも従順になり、しかもポルーニンのように美しく特別な存在に見えてしまうものだ、というある種の寓話として見ることもできる、普遍的な愛と官能の物語だ。(編集部)

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