劇場公開日 2021年9月3日

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アナザーラウンドのレビュー・感想・評価

全150件中、21~40件目を表示

3.5迷い

2023年7月17日
PCから投稿

(コロナきっかけでお酒をやめたが)かつてはお酒を飲み、お酒を飲んでいるときここのレビューを書くこともあった。

飲むと気持ちが大きくなるのでそれは文にもあらわれた。
酔っているとたいがい文がなれなれしくなった。

酔いによって希望的観測が増長し読者をもっているような書き方をする。オーディエンスを想定したインフルエンサーのようになる。

また“泣き”もあらわれた。
日本映画のお涙頂戴演出を嘲笑するにもかかわらず酔いながらレビューを書いていると読み手を泣かそうとする感傷が入る。とりわけ感涙した映画を飲んで書いたりするとべたべたになり、やたら共感をもとめる。酔っているとき、他者・世界は迎合な博愛主義者だった。

それらは書いているときはたいそう気分がよかった。
酔っているんだからあたりまえだが。
だがあとになって読み返すとべたべただったりなれなれしかったりで最悪の気分になった。

飲んで書くとそうなることを学習していったので、次第に酔い状態のときでもある程度律した文を書けるようにはなった。

が、酔っているときには悪魔のささやきが聞こえる。
悪魔のささやきはこんなことやあんなことを書いてしまおうとかツイートしてしまおう──とか言ってくる。

酔いながらものすごいこと言っちゃうぞみたいな気分でツイッターへの投稿文を練った。
酔っている間、練りまくって結局投稿はしない。したところで見る者は数人だが。

まっとうな大人は酔ってやったことがそれなりになることを知っている。
酔いながら執筆したり創作したりする小説家や芸術家もいるのだろうが一般には酔ってやったことはそれなりになる。

ニュースでは酔った人が誰かを傷つけておきながら記憶にないと供述しているのが毎日報じられている。

お酒がなぜだめかというと人様に迷惑をかけるから。
そうならない人もいるがそうなる人がけっこういるから。

誰にも迷惑をかけないならシぬまで飲んでもいいがそこらへんにシんでいたら家族とか後処理する人に迷惑をかけるだろう。
概して飲むと周囲に迷惑をかけ、悲劇がおこる。律することができないならやめとけ──ということになる。

酔いがひきおこした自他のばかを見てきた。お酒なんか飲まないにこしたことはない。

──

前提の認識としてデンマーク人(デンマーク人だけでなく白人や黒人)は日本人よりお酒が強い。
日本人の体質とアルコールの関係性はネットに概説が転がっている。モンゴロイドは白人や黒人にくらべてアセトアルデヒトを分解する酵素が不活性なのでお酒が弱い──そうだ。おそらく日本人ならこの実験は顔面が紅潮してしまうので無理ということになるだろう。
それにデンマークでは16歳から飲める──とのこと。映画の冒頭からして高校生のbeer mileからはじまる。

もとはThomas Vinterberg自身が戯曲として書いたもので、それを実娘のIda(アイダorイーダ)が気に入って映画化を切望していたという。Idaはミケルセンの娘役を演じる予定だった。ところが2019年Idaは交通事故で命をおとしてしまう。
Vinterbergは本作を彼女に捧げ、映画の大部分を彼女の学校で彼女のクラスメートと一緒に撮影したそうだ。
戯曲は酒が変えた世界の歴史を考察する話だったが悲劇があったことで酒によって人生を見つめ直す話に変えたという。

──

4人の中年男が血中アルコール濃度が微量あれば人は創造的でリラックスする──という精神科医の理論にもとづいて各々じぶんの身体で実験をおこなう。

最初からひやひやしかしない。

偽りなき者のVinterbergは当初おそらくもっと拒絶的でニヒルなものを書いたのだろう──と思うが前述した悲劇によって映画の結論が賛歌っぽくなっている。
いったん固辞された妻から幸先のいいメールが届きマーティン(ミケルセン)は高揚感たっぷりに踊りくるって幕引きする。

が、不安も残す。アノロフスキーのレスラーとおなじ終わり方だった。大ジャンプしてそのままシんだかもしれない。w。

個人的にはあいまいな結論だった。酒を飲み飲まれることで立場が崩壊していくことと中年離婚危機と中年応援歌などの要素が渾然一体化している。

酔って踊るのがミケルセンだったから一定の絵に成り得たが酩酊は美化できるものではない。
一級の演出だったがどう結論するか迷った気配になんとなく(娘を失った)Vinterbergの悲しさがあらわれていた気がする。

──

飲みたくなる映画でむしろそっちが困った。

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津次郎

3.5切なさあり、希望あり

2023年6月27日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

マッツ主演という事で、事前情報なしで観ました
最初は「ただお酒が飲みたいだけじゃん」と思いながら観ていました
お酒を飲むとすぐ気持ち悪くなって酔った楽しさを一度も味わった事のない私は、酔った時の高揚感というものをさらに味わってみたくなりました
何事も、過ぎたるは及ばざるが如し
途中から破滅に向かっていく流れが見えて、でもラストは切なさもありながら希望もあって、良い余韻の残る作品でした
おじさんになってもバカな事を一緒にしようとする仲間がいるって幸せです
高校卒業したばかりのキラキラした若者達が本当に眩しくて、あの頃に戻りたくなりました
そしてマッツの美しいダンスのラストシーン、マッツに酔っ払う作品です

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小町

4.0非飲酒者としては

2023年6月2日
iPhoneアプリから投稿

マッツ・ミケルセンが主演でないと成り立たない気がするけど、ザラっとした質感の映像と酩酊状態のハイな感じと相まって哀愁とエモーショナルが合わさって気持ちよかった。

非飲酒者としては終始、もう止めとけ…
てゆう気持ちしかならないし、嫌な予感しかなくて疲れるけど
中年にさしかかった不安や、このままでいいのか、みたいな切実な感情を酒で流し込めるならと、加速止まらなくなっていく姿には笑ってしまう。

デンマークの国民性などがあまり分かってなかったのでものすごい酒好きなんだなとゆう強烈な印象をデンマークに持ったけど、なんだかこの映画を見終わった頃にはこの宴の端っこの席に座らせてもらってるようないい気分に。

ハッピーエンドっぽく終わっているけど、きっとこの後も問題は発生して→酩酊して→誤魔化したり、ちょっと良くなったり→そして問題は発生しての繰り返し
なんだろうな。な大人な苦味も良い。人生って感じ。

それにしても、友達たちと無邪気にはしゃぐマッツや、
鼻血マッツ、顔面出血マッツ、更にラストシーンと
ただただ画面映えするかっこよさが映画の雰囲気を支えすぎてて凄かった。

配信で鑑賞。
これは映画館で観たかったな。

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madu

3.5切なさあり、希望あり

2023年5月25日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

マッツ主演という事で、事前情報なしで観ました
最初は「ただお酒が飲みたいだけじゃん」と思いながら観ていました
お酒を飲むとすぐ気持ち悪くなって酔った楽しさを一度も味わった事のない私は、酔った時の高揚感というものをさらに味わってみたくなりました
何事も、過ぎたるは及ばざるが如し
途中から破滅に向かっていく流れが見えて、でもラストは切なさもありながら希望もあって、良い余韻の残る作品でした
おじさんになってもバカな事をしようとする仲間がいるって幸せです
高校卒業したキラキラした若者達がほんと眩して、あの頃に戻りたくなりました
そしてマッツの美しいダンスのラストシーン、マッツに酔っ払う作品です

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小町

3.5酒は飲んでも飲まれるな

2023年5月24日
iPhoneアプリから投稿

観た後、色んな人に話したくなるような。そんな映画。

テーマも、役者もいいし、脚本もいいんだけど、何よりもいいのがポスター。すごく印象的で、正直見る前はエドガーライト的なパリピの愉快なおじさんの話かと思って、見たいな〜と思ってたら全然違くて。しかし面白くて。鑑賞後はまた色々違う風に見えるのでした。

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ginger

4.0大人向け飲酒あるある

2023年5月17日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

デンマーク映画は初めてだったが、何となくドイツ寄りな感じで違和感なく観れた。
全体を通してすごく独特な雰囲気で、明るいのに暗く、暗いのに明るいって感じだ。
自分も飲酒派でかつ主役陣と同世代なので、良いも悪いも共感しっぱなしだった。
それにしても、血中アルコール濃度0.05%を維持するのがベストって、本当にユニークな思想。すごくわかる気がする。現実仕事で試すわけにはいかないが、ゴルフラウンドでは確かに効果があるときも(笑)
個人的には本作のオープニングとラストシーンでの大騒ぎは、解放感全開で最高です!ぜひ仲間に入りたい。

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いけい

1.0言わんとする事決めた?

2023年5月3日
Androidアプリから投稿

もちろん何もかも説明してほしいわけじゃないのよ。そんな無粋なマーベルくんみたいなことは求めてない。だけどさ、この映画が始まったときにはマッツ・ミケルセンの嫁既に浮気をにおわせてたし夫婦間は冷めきってたじゃん?そうなった原因がマッツにあるならいいよ寂しかったからって言い訳も。でも何の情報も提供されないままカヌー旅行で一瞬近づいた嫁が離れまた最後にはなんのきっかけもなく近づいてきてそれを無にするミケルセン。は?どう思ってほしいわけ?監督よ、脚本家か?どっちだか知らんが思想もって映画作ってくれよ。カメラで出来事を撮るだけでは映画にならんのだよ。マッツ・ミケルセン使って壮大な無駄遣い。

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三毛猫泣太郎

2.5バレないものなのか?

2023年5月2日
Androidアプリから投稿

血中アルコール濃度0.05%って人から気づかれないものなのだろうか?
バレて人生台無しにするのでは!と、ハラハラしてました
酒の力を借りて人生の困難を乗り切ろうとする姿にも共感できず、アル中になるだろうし

どうもリアリティに欠けるような

そこは目をつぶって見るべき映画なのかな?

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Yoichiro

4.0血中濃度

2023年4月26日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

酒とはプラスとマイナスの両方に働く、節度をもってすればプラス、溺れればマイナス。酒好きならば誰しもが分かっているのね、そこに色々な人間模様が影響して人は高揚と反省を繰り返す。
いや〜エンディングからエンドロールへの繋がりは好みだった。

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Iwarenkon

3.5なぜか切ない。

2023年4月20日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

ハリウッドにはない味わいの良作ですね。
アルコールの良い面悪い面を上手に描いてると思います。
私は呑めない体質なので
酔ってハメを外すという経験が皆無だから
ある意味彼らが羨ましいです
それにしてもミケルセンさんが出ると画面が
ビシッと締まった感じが出ますね

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けはえ

3.0酒パワー

2023年4月8日
スマートフォンから投稿

酒好きとして、仕事中に少しくらい飲んだ方がうまく行くんじゃないかと思ったことは、過去に多々ある。そんな妄想を実現した映画。ただ匂いでバレるだろうな。
そんなに長くないのに、色々と詰め込んであった気がする。やや退屈だった。
評価:3.2

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bigsuke

2.5生きてくのがつらいとき…

2023年3月7日
iPhoneアプリから投稿

老いても寄り添い世話をする大切な犬がいても、
フッと、もういいかと、命を絶ちたくなってしまう。

話(言葉の受け渡し)ができる、人とのつながりがないと、生きてるのがしんどくなったとき、つなぎとめてくれるもの、ないよね、とすごく身に沁みた。

マーティンだって、順風な人生じゃない。
それでも。
マーティンには共に老いたいと願う愛する女性と、酔い潰れたとき介抱してくれる息子がいる。

孤独はつらいものだ。
自分も孤独の中にいるから、トミーが可哀想になってしまった。

映像が美しく、この雰囲気の中で暮らしてみたいと思わせる北欧の街並みや風景はうらやましい。

ミッツマケルセン雰囲気かっこよすぎ。

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くー

3.5酒についての雑感

2023年1月27日
iPhoneアプリから投稿

5年前、初めてビールを飲んだ日のことを思い出す。新宿のベルクだったか、友達に美味いからといって黒ビールを飲まされた。俺は大学一年生だった。

すげえ苦かった。どうしてこんなものをゴクゴク美味そうに飲んでるのか、友達だけじゃない、その場にいるほとんどすべての大人が、なんなんだマジで、本気でやってんのかそれ、意味わかんねーよ。俺は2、3口つけただけの残りを友達に全部飲ませた。

雑なことはあんまり言いたくなかった。その苦みが大人の苦みなんだよとか、飲まねえとやってらんねえのよとか知ったような口をきいてジョッキを飲み干す奴は、ものごとの機微を知らない、知ろうともしない愚か者だと思った。だいいちお前さ、まだ19歳じゃん。

5年経った。どっかの飲み屋にいた。同期に生でいいか?と訊かれた。俺はいいよと答えた。運ばれてくる、生、人数分。ハイお疲れー!ガラスがぶつかり合う音。それから波が引いたような無言。各々がジョッキを呷る。俺も。

相変わらず苦い。

が、飲める。

味覚が変わったのか、単に慣れてしまったのか、理由はわからない。だがジョッキはものの数分で空になった。大人の味だなあ、とはもう誰も言わなかった。言わずともわかりきっている、といった雰囲気だった。

最近、ふと大雑把に何かを断罪しようとしている自分がいることに気付くことがある。俺だってもっと丁寧に世界を見通したい。昼過ぎの無人の電車に流れる光の川を、目的地が過ぎても眺めていた日々が懐かしい。

今俺は地下鉄に乗っている。光も景色もない、つまらない道のり。余裕がなくなってきている。目の前に迫ってきたものを右か左に振り分ける、それで精一杯。

なんだかなあ、という気持ちで日々をやり過ごしている。ビールを飲む。なんだかなあ、という味がする。美味しいと思ったことは依然としてない。なんだかなあ、というぼんやりとした共通感というか、連帯感というか、それが心地いいような気がするから、苦いビールを飲んでいる。

やがて体にアルコールが回る。自分が両端のない空間にいるような錯覚に陥る。これも心地いい。長い長い現実世界のトンネルを抜けて薄橙色の花畑に躍り出たような、思わずスーツのまま踊り出したくなるような夢の世界。俺はそこまで恍惚の境地に踏み入れたことはないけど、たぶんそうなんだろう。酔っ払いがフラフラしているのは、頭の中で空を飛んでいるからだと思う。

酔っ払いが暴れるニュースをよく見る。誤ってホームに落ちる、商談をフイにする、信用を失う。

バカじゃねーの。19歳の俺は言うと思う。別に今だって言う。でも俺はビールを飲むとき、アルコールを体内に入れるとき、その苦さに自分を重ねてしまった、酔いがもたらす混濁に自由のイメージを思い描いてしまった。

飲まねえとやってられねえ人は、それがお決まりの定型句だからそう言ってるんじゃなくて、本当に飲まないとやってられねえから飲んでいる。そういう場合もあるということが最近ようやくわかってきた。

いや、わかってきたのか?それとも歳を取るごとに深く考えるのが面倒になってきて、わかったことにしているのか?何もわからない。

酒について考えているとわけがわからなくなってくる。ジュースでいいじゃん、という小学生の素朴なツッコミに、俺はいまだ有効な反論を思いつくことができない。そのわからなさが酒の魅力なのさ、と詭弁を弄してみたくなる。

酒を映画にするというのは綿飴を水に浮かせようとするようなものだ。

この映画は酒を否定も肯定もしない。単なるオブジェクトとして配置するだけ。でもそれが元で人々は悲喜交々の転換を迎える。

実際、酒それ自体に難しいところは何にもないのかもしれない。我々がそこに過度な期待や恐怖を抱くせいで無意味に意味慎重さを帯びているだけなのだ。

俺は一切合切の記憶を失ってみたい。知恵も知識も失った白紙状態になったとき、そのとき酒はいったいどんな味がするんだろう。

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因果

3.0アルコールは、薬物です。

2022年12月4日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

日常生活にアルコールを摂取して
自ら実験台になるってお話し。

やっぱり、アルコールは薬物だなぁと思った。
知れば知るほど、恐い合法麻薬。

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April

2.5全体的に静かだが、普通に楽しめる

2022年11月23日
PCから投稿

全体的に分かりやすいストーリーなので、観る側によって退屈に感じる人・安心して観られると考える人とで二分されるかもしれません。

飲酒後の良い流れ・悪い流れ、その各シーンの長さの割合から、飲酒をすることへの製作者の考えが少し読み取れたような気がしました。

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870

3.5効能とリスク

2022年9月24日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

マーティン役のマッツ・ミケルセン、見覚えあるけど思い出せませんでした。「007/カジノ・ロワイヤル」(06)のル・シッフルだったんですね。いや~、あの敵役は手強かったし、まさに適役でした!どことなくイ・ビョンホンに似ているって思ってしまいました(笑)。本当に飲んで酔ってるように見えるけど、さすがに演技なのかな~?選挙に投票する問題、なかなか面白かったです。僕も3番を選びましたが、当然、オチがあるわけで、印象に残りました。お酒を飲んで羽目を外すと一気に人間関係の距離が縮まったりしますが、逆効果の場合もあったりします。やはり、飲んでも飲まれてはいけませんね。

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赤ヒゲ

3.0興味深い話ではあったが

2022年9月5日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

キャラクターの設定がとても良く、みんな多少酒が入った方が調子よくいく、っていうところは結構面白かった。興味深い話でネタとしてはなかなか面白かったが、全体的にやや間延びした感が否めない。

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arlecchino

4.0人生は思い通りにはいかない…。深い懐をもって登場するすべての人の存在と感情を肯定。

2022年9月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 酒好きな北欧デンマークらしい酒にまつわる物語。今年、米アカデミー賞国際長編映画賞を受賞した本作は奇妙な前向きさとエネルギーにあふれていて、思わず自分の人生を振り返りたくなるほど示唆に富んでいました。

 「1、2杯引っかけた方が調子がいい」。酒飲みならきっと覚えがあるのではないでしょうか。それもそのはず、そのあたりが血中アルコール濃度0・05%で、その状態を保つとリラックスし、やる気と自信が漲ってくるのだという説を実際に提唱したノルウェーの哲学者がいたそうなのです。その哲学者フィン・スコルドゥールは「人間は血中アルコール濃度が0・05%足りない状態で生まれてきた」という理論を説きました。本作は デンマークのトマス・ヴィンターベア監督(おそらく飲んべえなのでしょう(^^ゞ)が、この理論からヒントを得た、ちょっと風変わりな陰りを帯びた喜劇になっています。とはいえ、既存の依存症映画とは異なります。

 歴史教師のマーティン(マッツ・ミケルセン)は、このところ気力が減退。授業中もほとんどの生徒が私語ばかり。本人も自分は教師に向いていないと疑問を持っており、やる気はゼロ。生徒と親から大学受験に受からないと授業にダメ出しされ、家では仕事で忙しい妻のアニカとも心がすれ違い。妻と2人の息子はそんな父を見限っていました。何をやってもうまくいきません。
 けれども思わぬ転機が訪れます。
 ある日、同僚の心理学教師、ニコライ(マグナス・ミラン)の誕生祝いが開かれました。しかし水ばかり飲んでいるマーティンにあきれたニコライは、スコルドゥールの説を語り、「君に欠けているのは自信と楽しむ気持ちだ」と説教。仲間に促され酒を飲んだ。するとこれまで味わったことにない高揚感に感動したのです。
 スコルドゥールの0・05%理論に興味を持ったマーティンは、こっそり酒をあおって教壇に立つと、驚くほど快活になって、魅力たっぷりの授業ができたのです。
 マーティンの変化に意を強くしたニコライは、0・05%理論の実証を論文として発表することにします。そのため、ほかのふたりの同僚教師にも声をかけて、4人の教師がそれぞれ酒瓶を隠し持って授業に臨むことなりました。
 マーティン以外の他の3人も似たり寄ったりで、中年の危機に瀕していました。それがアルコールの影響下で寛容かつ大胆になり、気分高揚、周囲の雰囲気も明るくなります。4人とも授業は大受け、家族との歯車も合って、実験は順調に進むのでした。

 しかしもちろん、うまくはいきません。酒飲みの第2法則、ほどほどではやめられないもの(^^ゞ。調子に乗って血中濃度を少しずつ上げていき、濃度を0.12%に上げると、その結果もてきめん。しかし泥酔は誰の目にも明らかで、ほろ酔いから本格的酔っ払いへ、さらに依存症へと変貌していきます。こうなれば、あとは悲劇が待ち構えているだけでした。

 こう書くと、酒の効用と危険を対比させて警告しているみたいですが、そんなに単純で道徳的な教訓話ではありません。それだけで終わらないのが本作の良いところ。行動に責任が伴うことを描くと同時に、それでも彼らの前に差し込む一筋の光明石描かれるのです。そして酒をきっかけに4人が直面している悲喜こもごものエピソードを点描し、「生きることとは何か」を語りかけてくるのです。
 老犬の介助や、子供のおねしょにてんてこ舞いするそれぞれの家庭の些細な実情は、さらっとした描写なのに伏線となって心に響きます。そこに漂っているのはやるせない酩酊感と苦しいほどの寂寥!

 特にうつろな目でぼそぼそと話していたマーティンが、自信に満ちた男に変身するのを見るだけで、もう十分に面白かったです。下戸の人には「なにをバカなことを」と鼻で笑われそうですが、けっこう説得力がありました。
 職場で飲んでよいものかと一瞬ためらい、飲酒して朗らかに振る舞うしぐさは実に自然で、納得!名優ミケルセンをはじめ、俳優陣は酔っ払いを演じきるため、撮影前にどのくらい飲酒したらどんな酔い方をするか、実際に飲んで確かめ、演じ方を真剣に論じ合ったそうです。
 ミケルセンとヴィンターベア監督は、ぬれぎぬを着せられた無実の男を描く「偽りなき者」でもタッグを組んでいますが、本作はぐっと軽やかなんです。酔ったマーティンたちが若者たちに向けて発するのは、ほとんどが励ましや包み込むような温かい言葉でした。
 その説得力を支えているのがリアリズム重視の「ドグマ95」という手法です。ヴィンターベア監督は 提唱者の一人とあって、酒飲みの描写が迫真なんです。
 「ドグマ95」とはセット撮影、人工照明、効果音などを禁止するルールに則った映画改革運動のことです。それにそうなら本来は照明効果は禁止ですが、本作ではそれと分からない光源を当てて撮影しています。それでも「ドグマ95」風に見えてしまうのは、若い撮影監督の腕がいいからでしょう。

 タイトルは英語で 「もう一杯」という意味。「失敗を恐れずに挑めば、人生の新しいスタートを切ることができる」ということでしょうか。自分の歩んできた人生を見つめ直し、輝きを取り戻す方法は、何も酒とは限りません。そこに思いをはせると、ただの「酔っ払い映画」ではなく、全ての悩める人への応援歌であることに気づかされます。ラストの高揚感に包まれたシーンには、希望が溢れていました。

 人生は思い通りにはいかない…。本作には出会いと別れ、希望と諦観、笑いと涙などなど、あらゆることがつまっていて、今にも溢れ出しそうなのです。そして、深い懐をもって登場するすべての人の存在と感情を肯定するのでした。
 最後に流れる曲の歌詞は語りかけてきます。「誰が何と言おうと人生は最高」だと。そしてこの作品をアイーダに捧げるというテロップで終わっていました。その時はなにも気にかけなかったのですが、マッツ・ミケルセンの娘役を演じるはずだった実娘のアイーダが、撮影4日目に交通事故で亡っていたそうなのです。「娘が生きていた証し、記念碑として完成させると決めた。」という監督の悲しみと決意を後から知って、涙が止めもなく流れました。

 それでも「誰が何と言おうと人生は最高」なのでしょう。(2021年9月3日公開/117分)

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流山の小地蔵

4.0マッツミケルセンにほろ酔い!!

2022年8月2日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

血中アルコール濃度0・05%で授業する教師たちの実験。
なんとも穏やかでない!
これってもしかして実話?!
2020年(デンマーク)監督:トマス・ヴィンターベア。
アカデミー国際長編映画賞を受賞したデンマーク映画です。
デンマークの国民的スター・マッツ・ミケルセンが主演しています。
題材に選んだテーマが、斬新でした。
「アルコールを適量飲んで仕事をしたら成果は上がるか??」
企画の勝利ですね。
とても考えさせられ、また泣き笑いする、とても良い作品でした。

中年男性の悲哀を感じました。
若い頃に較べて日々体力・気力・感覚の衰えをを感じ、仕事にも飽きて、妻にも新鮮味を感じない。
一番の問題は、彼らの教師としての授業が退屈なことです。
仕事への情熱が失せたため、生徒から受けないし、
授業に魅力が無いのです。

マーティン(マッツ・ミケルセン)は歴史の教師です。
脈絡のない授業に生徒はスマホをいじったり、途中で抜け出したり・・・。
遂には情熱のない授業に父兄からダメ出しを食らいます。

同じ悩みを持つ同僚の音楽、心理学、体育担当の4人で実験開始です。

やってみるとリラックスできるし、授業はノリノリで面白くなリ、
教室は笑い声で沸き立ちます。
合唱の授業でも生徒は素晴らしいハーモニーを響かせることに。
気を良くした4人はアルコール濃度をあげてみます。
マーティンは、更に限界に挑戦すると言い出す始末。

さてエスカレートした実験の結果は?
(ほろ苦いです、ビールより苦い)

高校生の若さは眩しいです。
若さは宝物と気付く映画でもありました。

挿入曲がセンス良くて映画を盛り立てます。
「デンマークに生まれて」の美しいこと。
デンマーク人は愛国心に溢れてますね。

そして何と言っても、マッツ・ミケルセンです。
ラストで見せるダンスの格好良いこと。
(なんとバレエアカデミー出身なんですねー)
黒いスーツの下の身体の線の引き締まってること。
(体操の選手だったこともある)

デンマークの宝は、くたびれた中年男役でも、その魅力を隠せなかったです。
お勧めです。

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琥珀糖

3.0人生は美しい

2022年7月28日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

面白い試みだなと思って観てました。
マッツミケルセンの枯れた演技が素晴らしく、
前半はこの先生の授業つまらなそうだなと言う感じ
をヒシヒシと感じました。

血中アルコール濃度を0.05に保つと精神的なバランス
が良くなると言う仮説を実証して行くのだけど、
好転するコントラストをもっとハッキリ見せて欲しかったけど、それだとコメディになっちゃうのか…

まぁ想像通り、酒を飲んで仕事して行き着く先は
地獄だろうなと誰もが思うのだけど、
どうやらデンマークは高校生も酒を飲めるらしく、
この辺りの風刺にもなってるのかなと思います。

学生のキルケゴールの話がこの映画のテーマとも
思え、不安や失敗から何を学ぶかが大切であり、
この試みを全て否定しないラストも良かったと思います。
それでも人生は素晴らしい。
つまらない人生をつまらないで終わらすのではなく、
何かやってみることもまたら大事なのかもなと思える
映画でした。
だけど、自分の場合
お酒を手に取ることはやめておきます。

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奥嶋ひろまさ