「これは滝沢サーカスである。」滝沢歌舞伎 ZERO 2020 The Movie ローズマリーさんの映画レビュー(感想・評価)
これは滝沢サーカスである。
コロナ渦で何も楽しみが見出せない時期にYouTube でSnowmanに出会い、6人から9人へと変化を遂げて大きく羽ばたいている彼らをここ数ヶ月応援してきました。YouTubeでの「滝沢歌舞伎Zero発売記念!ベストシーンはどこ?」、Netflix番組「Ride on time」での舞台に挑むまでのエピソードを視聴し、高い期待を込めて映画館へ足を運びました。一緒に同席した友人の分を合わせて、2人分のチケットを払って観覧しました。
映画の内容は舞台とはまた違う構成になっているものだと認識していましたが、観終わった後の感想は「何を伝えたいのかがわからない」に尽きます。演者であるSnowmanは限られた時間の中でできる限りを尽くして精一杯取り組んでいたと思います。問題は、脚本です。この作品を世に出そうと思った制作陣に対して憤りを感じました。
まず、冒頭に登場する少年の苦悩に対しての説明がなく、不気味な音楽と部屋の暗さに面食らいました。そして、色突如現れた外国人女性が海を越えて滝沢歌舞伎の世界へ誘うと言う演出が行われるのですが、なぜ外国人女性なのか、なぜ海を越えるのか、その島はどこなのかといった説明がありません。(少年漫画のとある海賊映画に影響を受けたのか、はたまたスターウォーズの戦艦に憧れたとでもいえるような突飛な映像が3Dで登場します)
そして、Snowmanが登場し、歌、殺陣、歌舞伎、PV演出、太鼓、時代劇などと内容が続いていきます。例えるなら、それはまるでサーカス。次々と内容が変わり、冒頭に登場した少年がなんだったのかわからぬままに、それぞれ個別の内容が進んでいきます。一つ一つは、それぞれメンバーの素敵な部分が拝見できるのですが、全体を通してこの映画は何を伝えたかったのかが今ひとつわからなかったのです。そもそも「歌舞伎」と言うタイトルがついていたので、映画を見る前は歌舞伎映画なのかと思いましたが、実際はそうではなくさまざまな内容が盛り込まれているパロディ作品のような形でした。歌舞伎をする以上、演技指導があったことはNetflixの番組を見ていてわかりましたが、ほんの一部のシーンを行ったからそれを「滝沢歌舞伎」と言うには少々傲りが過ぎるのではないかと思います。歌舞伎の世界一筋でやっておられる方々への敬意が欠けるのではないかとさえ思うほどです。これは、演じているSnowmanが悪いわけではなく、「滝沢歌舞伎」と言う名前で作品を作っている監督、演出・企画の方々に対する率直な感想です。
Netflixのドキュメンタリー映像の中で滝沢秀明氏が「体一つで、パフォーマンスでメッセージを伝えるのが僕はエンターテイメントの仕事だと思う」と話しており、その道のプロではないジャニーズが伝統芸能である歌舞伎や太鼓などに挑んでいるという熱をお客様へ伝えたいと訴えていました。確かに、個々の演目に関してメンバーは全力で取り組んでいたと思います。しかし、作品全体を通して何を伝えたいのかというエンターテインメントの真髄である「作品のメッセージ性」に関しては、もう少し精査なさった方がよろしいのではないかと思いました。つまり、なぜあなた方は義経物語を選んだのか?なぜ、鼠小僧を選んだのか?なぜ、この順番なのか?観ている観客がその作品たちを通してどんな思いを抱き、どんな考えに至って欲しいのかということが見えてこないということを問題提起したいのです。
よかった点をあげるとすれば、殺陣の時の9人のアクロバット、新しく加入した3名が突出するような役どころになっていたこと、舘様の時代劇の発声と演技、時代劇の脇役のJr.の子たち数名の演技がいい味を出していたことあたりでしょうか。繰り返しになりますが、演者は限られた時間の中で懸命に与えられた役を務めていたと思います。この映画を見てから、改めてNetflixのSnowmanのドキュメンタリー映像を見ましたが、時間的にも精神的にもプレッシャーを抱える中で、よく演じ切ったと思います。今後さらに練習時間や指導があれば、さらにその技に磨きがかかる力をSnowmanのメンバーは持っていると確信します。
ただ、作品としてエンターテイメントとしてメッセージ性のあるものを世に出すのであれば、脚本家の方に別途全体的な構成を見ていただいて、内容を改めて検討した方がよろしいのではないかと思ったのが、今回の映画を見た感想です。また今後、作品としてSnowmanが継承していくのであれば「歌舞伎」や「伝統芸能」にとらわれずに0ベースでSnowmanの持つ個性を生かす作品を作られた方が誰しもの心を打つものになると思います。それがもし歌舞伎という形で表現したいのであれば、日本の歌舞伎界には素晴らしい役者の方々がいらっしゃいますのできちんと時間をかけてご指導を受けられて、演目を選び、舞台に挑むことが、芸能、すなわちエンターテイメントにおける姿勢なのではないかと存じます。滝沢監督にはぜひ、世阿弥の書いた「風姿花伝」を読んでいただき、「花」、すなわち人の心に思いもよらない感動を催す手立てというものについて一考いただきたく存じます。
私が思ったことを、いやそれ以上に代弁してくださり、すっきりしました!確かに、手段が目的化してしまっていたのかもしれないですね。SnowManを魅せる、というところからゼロベースで再構築した舞台を観たいものです。
私は夫に付き合ってもらって観ましたが、上映中、隣で何度も時計をみる夫に申し訳なく、終わってすぐ謝罪しました。。