「異世界バトルのスペクタクルと、悲恋物語」白蛇:縁起 kazzさんの映画レビュー(感想・評価)
異世界バトルのスペクタクルと、悲恋物語
なんとも、美しい。
日本語吹替え版で観賞。
中国の民族衣装独特の長い袖と裾が、ハイスピードのバトルシーンで流麗に風を切り激しくはためく様が実に美しい。
『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』を思い出した。
中国の民間伝承である白蛇伝説は、そもそも娘に姿を変えた白蛇の化身が人間の男を喰ってしまうものだ。物語化された大抵のものは、とりつかれた男が死ぬか、妖怪退治で白蛇が葬られるかという結末。
これが、白蛇の化身が人間の男と恋に落ちる悲恋物語に形を変えて様々なストーリーが作られたのは、近代になってからなのだろう。
本作では白蛇の化身は蛇族の「妖怪」とされ、蛇狩りを民に強要する国師と蛇族との戦いを背景に、妖怪と恋に落ちた人間の若者が戦いに巻き込まれていく物語。
最新3DCGアニメーションにふさわしいスケールの戦いが描かれていて、今までで最もエキサイティングな白蛇伝になっているのではないだろうか。
ただ、国師もその部下の導師も不思議な術を使うので、妖怪も人間もあったものではない。
ともすれば邪術を擁する人間の方が強く、妖怪蛇族は抑圧され虐げられた存在のようだ。
ヒロイン「白」や妹の「青」など女性キャラクターが離れ眼で切れ長なのは、西洋から見た東洋美人のイメージを意識しているのだろうか。京劇のメイクに寄せているのかもしれない。
なんとなく岩田剛典似の村の若者「宣」に道化役の犬が付添うあたりは、ディズニーの作劇術をうまく採り入れている。
白と宣のラブシーンも織り込まれ、中米合作らしいエンターテインメント作品だ。
やはり悲恋物語というのは、二人に立ちはだかる壁が高ければ高いほど面白い。それを乗り越えようとする二人にまた壁が現れ、そして結局成就しない結末が得も言われぬカタルシスをもたらす。
この物語における壁は相当に高い。
白を愛するあまり宣は驚きの選択をする。一見破滅的な選択の様だが、妖怪世界でともに生きようとする行動であって、前時代的な自己犠牲とは異なる。
だがしかし、白を取り戻すどころか、罪のない村人を救わなければならない正義感から孤独な戦いに突入する宣。妖獣と化して制御不能となった白に対して、ゆるぎない想いを貫く宣の姿は、悲痛でもあり凛々しくもある。
欲望の権化として肥大化した国師、一族防衛の一心だったはずが征服欲に目覚めた蛇族の首領、混沌と化した戦いの中で二人が結ばれることはないのだ。
・・・そして、後日譚が描かれて幕となり、我々は来世での二人の再会を願うのだった。