劇場公開日 2020年7月3日

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「「37年前」では早過ぎたが、「37年後」は遅過ぎた……」アングスト 不安 しーぷまんさんの映画レビュー(感想・評価)

2.5「37年前」では早過ぎたが、「37年後」は遅過ぎた……

2020年7月22日
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鑑賞方法:映画館

怖い

単純

話題になっていたのでいくつかのサイトで下調べをした上で鑑賞。

総じて「あまりハードルを上げないほうがいい」という評価が目に留まりやすかったのでそのつもりで見ました。

本当にその通りでした……

一言で言うと、「"シリアルキラー""サイコパス"という言葉が知られた現代(の日本)だから公開できたが、それゆえに驚きがなかった」です。

まずこの映画の特徴の一つである主人公ヴェルナーの異常性。
確かに「理解できない行動をとる恐ろしい人間」ではあるのですが、彼が劇中ほとんど喋らない代わりにナレーションとモノローグで彼の異常性と心情……つまり「行動原理」を説明してしまいます。

しかも彼が行動を起こしたり次の場面に切り替わる前に全て説明し切ってしまう事も多く、彼の「異常性」「理解不能な行動」の持つ躍動感や緊迫感を著しく削いでいます。
(しかも長々と説明されるので、字幕で見ている事もあって余計に映像に集中できない)

どちらかというとヴェルナーの「間抜けさ」「詰めの甘さ」が目立って見えるのですが、繰り返し「彼の綿密な計画は…」とか「今回は綿密に計画を立てて…」と説明してくるので非常にこの映画自体が滑稽に見えてしまいます。

そしてもう一つの特徴である「カメラワーク」。
コレにはいいところもありましたが、「良くないなぁ…」と思える所も少しありました。

基本的には「ヴェルナーの心情と言動、視点」を映し出すように撮影されていて、彼の興奮や不安を表現しているように感じました。
また、彼の性癖や異常性を際立たせるようなアングルも多く、物語にプラスに働いていた要素でしょう。

また、その他にも彼に狙われた人物が襲われるシーンなどでは、「被害者の主観視点⇄加害者の主観視点」の切り替えや、追いかけている・追われている時の顔のドアップなどは極限状態の心情が伝わって良かったです。
(本作の製作時点ではいざ知らず、40年近く経った今ではそのカメラワークがブラッシュアップされた作品がいくつもある、というのは度外視しています)

ただ、「生々しさ」を伝える為か、あまり劇中内の時間が飛ばず、ヴェルナーが丸一日に体験した事の殆どを目の当たりにします。
彼の、そして物語のテンションがピークに達し、そこだけ一気に時間が飛んで、極端にトーンダウンした後の「事後処理」は前述のモノローグで全て説明する上に同じ事の繰り返しが多いので、特に遺体を運び出すシーンはとにかく退屈でした。
ここは「省略してもいいんじゃないか?」と考えてしまう要素がいくつかあって残念でした。

また演出や演技もチープな部分が目立ってしまいました。
主演のアーウィン・レダーさんはそこに「殺人鬼がいる」と思わせてくれる程際立っており、彼の間抜けにも思える凡ミスも「突然始まった」が故の高揚感と焦燥感の入り混じった心情描写に思えて鬼気迫るものがありました。

しかしその他の役者さん達の演技は日本のバラエティの再現VTRよりも酷いんじゃないかというほど表情の変わらない演技、そしてそれを写す顔のドアップ。
特に襲われた一家の人達の演技は「こ、殺される…!」という部分の直前まで無表情だったり棒立ちだったりと気の抜けたシーンになってる事が多かったです。

40年近くも前に撮られた映画にアレコレ言うのも野暮だとは思いますが、映画としての完成度は置いといて、せめてもう15年日本での公開が早ければ、文字通り「衝撃の話題作」になれたかもしれません。
現在の「多様性」という言葉と、そこに潜む危険性が認知された今では、「シリアルキラー」としても弱く、また「カメラワーク」も斬新ではなくなっているというのが、非常に惜しい作品なんじゃないでしょうか?
(まあ、世の中がこの映画より前に進んでいることを実感できた、という意味では個人的に見て良かった作品だとは思いました)

しーぷまん