「我々に固い“ブラッド”の契りを」ザ・ファイブ・ブラッズ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
我々に固い“ブラッド”の契りを
一時の不調が嘘のよう。
『ブラック・クランズマン』で大復活ホームランをかっ飛ばしたスパイク・リーが、再び放つKO級力作!
『ブラック・クランズマン』もそうだが、リー復活の要因の一つは、題材の面白さ。
ポール、オーティス、メルヴィン、エディはベトナム戦争の退役黒人兵。
ある目的の為に、半世紀を経て、再びベトナムの地を訪れた。それは…
彼らの隊長で盟友だったノーマンの遺骨を連れて帰る事。
そして、もう一つ。ジャングルの奥地に隠した金塊を掘り返す事…。
ベトナムの空港で十数年ぶりに再会した彼ら。
固い血の絆で結ばれたブラザーであろう、“ブラッド”と呼び合っている。
各々個性的、性格もバラバラ。ポールはリーダーシップ、オーティスは真面目、メルヴィンはムードメイカー、エディは人生の成功者になった。
老いても尚元気。和気あいあい。早速その夜はクラブに乗り出すほど。
オーティスにはかつてこの地で出来た恋人が。その間に…。
彼女の紹介で、フランス商人が今回の件に協力を。が、どうも怪しい…。
4人だけだと思ったら、ポールの息子デヴィッドが父を心配してついて来た。
出発までちょっとあったが、現地ガイドの案内を得て、
4人のおじいちゃん+αの大冒険の始まり始まり~!
『地獄の黙示録』など映画へのオマージュ。
音楽ファンには堪らない楽曲センス。
ユーモアや登場人物たちの掛け合い。
お宝探しアドベンチャーな醍醐味も。
序盤はエンタメ度が高い。
しかし、金は人を狂わせていく…。
大抵こういう作品の場合、“金”というエゴの目的は脆くも破れ去る事が多いが、本作は見事辿り着く。
やった! 遂に手に入れた! これで億万長者だ!
が、分け合った金塊を自分の為に使う派、ある自分の言葉通りに使う派で意見が分かれる。
その“ある人物”とは…
ノーマン。
ノーマンは人格者だった。
彼らにとってのキング牧師であり、マルコムXであった。
教養や道徳、黒人に対する世界の問題などを彼らに説き、特にポールはノーマンの事を慕っていた。
そもそもこの旅は、金塊を探し出す事もあるが、ノーマンの遺骨を見つける事もあった。
ノーマンが今の彼らを見たらどう思うか。
彼らの中で、己の欲と理性が激しく苦悩する。
そんな時、思わぬ事態…いや、衝撃の事態が発生。
これを機に、お宝探しムードだった旅が緊迫の修羅場へ。
内部分裂。引き金は、ポール。仲間同士、父と息子…。
さらに追い討ちを掛けるように、金塊を狙うのは彼らだけではなかった…。
半世紀前、生きて帰って来られたベトナム。
しかし、再び足を踏み入れたら…。
“それ”はまだ続いていた。
彼らはまた生きて戻れるのか…?
舞台はほとんどジャングルで、登場人物も限られるが、それでも強力アンサンブル。
中でも、デルロイ・リンドーが凄まじい演技で圧倒する。
ポールはかなりキレ易い性格でもあり、怒ったり暴走すると手が付けられない。
内部分裂の問題でもあるが、彼はある苦しみを抱えている。
PTSD。
ベトナム戦争以来、ずっと。
が、戦争でバラ蒔かれた薬品でも、戦争自体でも、そして“アメリカ”もこの俺を殺せなかった。
くたばってたまるか!
ポールが一人称で画面…いや、この世界に訴えるシーンは圧巻の一言に尽きる。
今年のオスカー主演男優賞は強力ライバル多いが、これまでのキャリアも考慮して何としても初ノミネートされて欲しいものだ。
そんな“動”のリンドーに対し、オーティス役のクラーク・ピーターズとデヴィッド役のジョナサン・メイジャーズが抑えた好助演。
しかし、やはり助演ノミネートされるであろうは、ノーマン役のチャドウィック・ボウズマンだろう。
実は、そんなに出番は多くない。
が、彼らの心に今も生き続けている。
ポールはノーマンに対し、ある罪悪感を。それが、彼を今も苦しめ続けているPTSDの原因。
そんな彼の前に“現れた”ノーマン。
この再会とノーマンが掛けた言葉に、ポールだけじゃなく、見てる我々も救われ、赦されたような気がした。
ベトナム戦争の実際の生々しい映像。
当時の実録ニュース映像。
やっと消えてくれたアメリカ前独裁者へのキツイ批判。
重苦しいドラマだけじゃなく、スリリングなストーリー展開、銃撃戦などのアクション。
現在と過去が交錯して進み、過去のシーンは16ミリフィルム。
とにかく、重厚大ボリュームの2時間半!
が、実際リーがそこに込めたのは…
戦争は終わっていない。
戦争は続いている。
戦争は無くならない。
PTSD、紛争地域…。
そして、
拝められ、英雄視されるのは常に白人。
忘れるな!
犠牲になった“多くの人たち”、白人の為に従軍させられ命散った黒人たち…。
戦争、人種問題、赦しと平和への祈りーーー。
リーのこんな声が聞こえて来たような気がした。
世界中の人々がこう呼び合える日を。
“ブラッド”。