「ラブクラフトの悪夢色世界への扉を開く」カラー・アウト・オブ・スペース 遭遇 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
ラブクラフトの悪夢色世界への扉を開く
その名は聞いた事あったが、作品を見るのはこれが初めてかもしれない。
H・P・ラブクラフト。
怪奇/SF小説の大家であり、元祖。彼が創り上げた未知の恐怖の世界“クトゥルー神話”がなければ、『エイリアン』も『遊星からの物体X』もその他多くの作品も生まれなかったと断言していい。
いつぞやの『ダークサイドミステリー』でラブクラフトを特集し、グッドタイミングで本作が公開/リリース。
ラブクラフト自身が最高傑作と称したという短編『宇宙の彼方の色』を現代に舞台にして映画化。さあ、ラブクラフトの未知なる恐怖の世界へ行こう…。
都会から引っ越し、念願の田舎町で妻と3人の子供と穏やかに暮らすネイサン。
だが、庭に隕石と思われる岩が落下してきた夜を境に…。
穏やかとは言ったものの、序盤から不穏なムード漂う。
水文学者ワードの意味深なナレーションで始まり、
魔女崇拝者のような一家の長女ラヴィニア。
末っ子ジャックには空想の友達が。
唯一、近所に住む仙人みたいな老人の暗示も…?
それでも幸せだった。
突然の衝撃と、光!
庭に隕石が!
無論町でちょっとしたニュースになり、普通だったら有名人みたいにもなるが…、
それとは真逆の悪夢の世界への入り口はここから開いた…。
あの日から、一家の言動に変化が。
母テレサはラヴィニアに辛辣な言葉を投げ掛ける。
さらにテレサは、料理中に自分の指を切ってしまう。
ジャックは井戸の中に誰か居る、と…。
ワードは水質汚染を突き止めるが、ただのそれだけなのだろうか…?
否!
間違いなく、人智の及ばぬ何かが、そこにある。
謎の電磁波障害や異変。
そして、怪現象は拍車をかけて一家を襲う。
庭一面に生えた美しいようで不気味な花。
現れ始めた異生物。
ネイサンが異様に愛を注ぎ飼育しているアルパカが奇形化。
そのアルパカが放った光を浴び、テレサとジャックが…。とにかくここが、本作で最もおぞましかった。
隕石の影響をもろに受けたのはネイサンだろう。直後から酷い臭いに反応し、徐々に人が変わっていき、終盤などもはや異常者。
たった一つの隕石が全てを狂わす。
いや、単なる隕石では無かったのだ。異世界から来た何か…。
昨今B級作品続くニコケイだが、本作での話題のブチギレ狂乱怪演は見もの。
でもそれ以上にインパクト残すのはやはり、そのビジュアル。
まず、クリーチャー。別にそれがメインの作品ではないが、カマキリ型、アルパカ奇形、バスルームのグニュグニュ、そしてテレサとジャックの…。グロテスクでショッキング。
“色”が本作最大のビジュアルと言っていいだろう。隕石衝突の際や庭一面の花の、紫ともピンクとも言える色。美しいが、悪夢的。今後、紫やピンクを見たらちょっと怖く感じそうな…。
正直、大傑作とまでとはいかず。
登場人物の描写や言動に「?」と思う時あり、それを人智では計り知れないと言ってしまったら…。
演出も脚色もお粗末なニコケイB級SFホラーの一つ…と言いたい所だが、今回ばかりはラブクラフト色に助けられた感あり。
原作発表は1927年だが、世界が得体の知れない何かに犯されていく恐怖は今にも通ずる。と言うか、今まさにそう。
異世界、宇宙、未知のウィルス…。
人間は夢や希望を抱いているが、その心奥に、恐怖を潜めている。
ラブクラフトはそれを鮮烈に描く。
今更ながら興味持ち始めた、ラブクラフトのクトゥルー神話への第一歩。
ギレルモ・デル・トロも兼ねてから映画化を熱望しているという。(『狂気の山脈にて』)
是非とも次の扉(映画化作品)も開けて見たい。