「奇抜なのに奇抜ではない普通のロマンスなところがいい」恋する寄生虫 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
奇抜なのに奇抜ではない普通のロマンスなところがいい
恋する気持ちというのは単なる勘違いだと言われますが、その勘違いの原因が虫であるとしたのが本作だ。つまり虫の存在がなくともロマンス作品として成立するのだ。そしてそこが面白いところでもある。
奇抜な設定を盛りに盛っていてもただの恋愛物となんら変わらないところがいい。
ファンタジー世界のような映像表現が林遣都演じる主人公の潔癖症が和らいでいくにつれ次第に現実的になっていく。
言い方は悪いが恋の高まりにつられて普通になっていく、二人の距離が近くなっていく。
主人公の見る世界が恋の色付きにより夢見る世界のようになるのではなくてリアルな世界になる逆転状態が面白い。
最初に書いたように恋はバグだ。この物語の虫がいようがいまいがバグは発生するのである。
主人公の作ったプログラムがバグにより作動しなかった。停電による暗闇の代わりに主人公が目にしたものは、最初に見えていた細菌のように広がる現実の電飾の光。
バグがあるというのは、少なくとも人間にとっては何も悪いことなどないのだ。
虫を排除しても人の心のバグは残るのである。
普段の生活に苦労する二人の境遇が似ているからこそ惹かれていくところがいい。ある意味で価値観が似ているといえる。普通の人にとっては下らない困りごとでも、互いが互いにそうであるから受け入れ理解できる。
この人ならという想いが芽生えるのは必然だった。
そして、恋のバグが発現しても急に普通の恋人のようになれるわけもなく、目標がクリスマスまでに手を繋ぐという中学生みたいな距離感なのも面白い。
劇的な運命の恋のはずなのに燃え上がらない。大人なのに大人らしくないじれったさが面白いのだ。