「明らかにしていこうという執念、大きすぎる真実?」誰がハマーショルドを殺したか CBさんの映画レビュー(感想・評価)
明らかにしていこうという執念、大きすぎる真実?
1961年に、国連事務総長のハマーショルド氏が、飛行機の墜落事故で死んだ原因不明の事件の真相を追って、ずっと追求してきたヨーラン・ビョークダール氏といっしょに、マッツ・ブリュガー監督がアフリカ、ヨーロッパの各地を飛び回る話。
観ればわかるが、監督の中で結論は出ている。しかし、映画の冒頭で 「本作は、国際的な殺人事件なのか、あきれた陰謀説なのか。後者だったら謝ります」 とわざわざ宣言しているのは、なぜか。おそらく、たどりついた結論が、あまりにも大きすぎて、最後の証言者の証言を受け入れれば、すべての辻褄はあうのだけれど、監督本人にしても、それが事実だと100%信じることができないという状況を示しているのだろう。
これから観る人は、(映画内で説明はされるが)ハマーショルド事件を知っていた方が圧倒的にわかりやすいので、簡単に紹介しておきます。
ダグ・ハマーショルド:第2代国連事務総長(任期:1953年4月 - 1961年9月)。在任中に死去した唯一の国連事務総長。
1960年、ベルギーの植民地から独立を果たしたコンゴ共和国は、内乱であるコンゴ動乱の沈静化の援助を国連に求めた。9月、ソ連は、国連軍を編成するとした国連決議に賛成する一方で、政権への支援が不十分とハマーショルドの国連事務総長の辞任を要求した。翌61年9月17日夜、コンゴ動乱の停戦調停に赴く途上で、搭乗機が現在のザンビアのンドラで墜落し、ハマーショルドも事故死した。
撃墜説や暗殺説が広まったが、機内にブラックボックスが搭載されていなかった時代で、事故に至る経緯は事故後の推定と調査に依存する他なく、調査では被弾や爆発の痕跡は一切発見されなかった。
しかし2013年に調査委員会が設置され、2017年公表の調査報告書は、外部からの攻撃や脅威が原因である可能性を示唆した。(以上、Wikipedia から)
本作で真相を追い続けたインタビューの中で、ベルギー人傭兵の戦闘機パイロット(2007年没)が命令されて撃墜したことを証言している。ハマーショルドの墜落死は、旅客機が撃墜された結果だという証言にはたどり着いている。
豊富な地下資源を有するカタンガ州は、1960年にコンゴからの分離独立をめざし内戦を繰り広げた。その際に、ベルギーの巨大鉱山会社が、カタンガの支配層を作り上げ、傭兵を呼び込んだとしている。国連軍はカタンガの傭兵を抑え込もうとしたがうまくいかず、鉱山会社と傭兵に守られたとしている。(最終的には、1963年に独立を断念)
一方、証言の中にたびたび現れる南アフリカ海洋研究所サイマー(SAIMR)。その実情は、5000人以上を抱える、英国主導で作られたと思われる諜報活動・破壊活動の拠点。統率していたのはマクスウェルという常に白衣を着ている白人。彼に会えば、誰もがかしこまるというカリスマ性。しかし、ウマがあわない人間は必ず消す男。エイズワクチンを悪用して、黒人撲滅をめざしてエイズワクチンに細工をして、ワクチンを打つふりをして逆に黒人にエイズを蔓延させようとしたという作戦。サイマーで働いていて、その内情を伝えようとしたために殺されたダクマーという名の女性。
たしかにハマーショルドの話と、サイマーの陰謀は直結している。しかし知りえたサイマーの陰謀はより巨大すぎて、確実にドキュメンタリーと言えるまでの証拠が揃っていない。「証言者が頭の中で勝手に作りあげた陰謀論だ」 と言われても確実に反論できるところまでいっていない。監督自身が 「真実だと思うか?それとも陰謀説だと思うか?」 と観客に聞きたくなる気持ちもわかる。あまたの証言から、サイマーと言う集団の存在は明らかだが、行ったと言われることのひとつひとつにしっかりした証拠があるわけではない。これでは、フィクションの域を出ない。しかし、ここまでつかんだことを、映画監督として公開しないわけにはいかない。伝えたいが、絶対的な証拠をつかんでいるわけではなく、証言の積み重ねのみ。そのジレンマが、冒頭の 「本作は、国際的な殺人事件なのか、あきれた陰謀説なのか。後者だったら謝ります」 という宣言になったのだと思える。
それでも伝えようと公開した理由は、最終11章で聞ける監督のモノローグだろう。「ダイヤや金が出るアフリカを自由にしたい白人。アフリカを自由にしようとするハマーショルド。そして彼は殺された。白人にとっての脅威だから。いなくなって得するのは世界のビジネス。ハマーショルドがいれば、アフリカは30~40年前に、闘い始めていだろう」 という思い。この思いが、本作を公開にふみきらせたのだと思う。