劇場公開日 2021年10月1日

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「公助が崩壊した社会」護られなかった者たちへ 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0公助が崩壊した社会

2021年10月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

こうした正邪を割り切れない骨太な人間ドラマをヒットに導けるのは、日本では瀬々敬久監督だけになっている。震災で多くの生命が失われ、残された者たちは懸命に生きる。しかし、震災で生き残れても貧困が襲いかかる。本作は生活保護を題材に、社会の理不尽を描く。だれもが精一杯生きている。精一杯生きているから追い詰められて、最後には疲れてしまう。なぜ役所の人間は、生活保護が必要な人をぞんざいに扱うのか。彼らも終わりの見えない業務に疲れ果てている。そのツケがどんどん弱い人のところに溜まっていき、悲劇が見えないところで起こっている。
自助・共助・公助という言葉がコロナ禍で使われたが、自助だけでは生きていけず、震災のような未曾有の災害が起きれば皆が苦しいのだから、余裕を持って共助できる人は限られる。そういう人間を救うのが公助の役割なのだが、法律改正によって公助で救われる人が少なくなってしまった。そのことへの怒りがこの映画にはある。
役所の人間が、生活保護法の改正の件について長台詞で「説明」する。あれは完全に説明ゼリフだ。巧者の瀬々監督も脚本の林さんも、あれが映画全体の中で浮いてしまうことはわかっていたはずだ。それでも、はっきり言わねばならないことだったのだ。

杉本穂高