「ネタバレ無しでそれなりに力を込めて書くのは難しいですね」護られなかった者たちへ グレシャムの法則さんの映画レビュー(感想・評価)
ネタバレ無しでそれなりに力を込めて書くのは難しいですね
清原果耶さんの起用。
これだけでこの映画は大成功‼️
と私は言い切ります。
あ、それと、佐藤健さんがこの映画でも剣心ばりに走ってます。最初の避難所でのダッシュはほとんど瞬間移動でした。
護るべき立場にいる者が、護られるべき者に向かいあった時、正しい行動とはなにか。
そしてあなたがその護るべき立場の者であったら、どうするか。
今、(上映館が少ないため結果的には密かに)話題となっている『由宇子の天秤』における正義についての問いかけと基本的には同じことをズシンと訴えてきます。
例えば、少年ジャンプの三大原則(友情、努力、勝利)に基づく判断だけで、次の行動を選択できるような世の中であれば、あまり悩むことはありません。
残念ながら、現実の世の中はもっと複雑で、生きづらいです。
何かに対処しなければならない時、多くの人は利害関係に基づく合理的な判断に加えて、良心、プライド、矜持、恩義や義理、人間としての尊厳や尊重、などさまざまな要素を絡めなくてはなりません。
この映画では、震災がひとつの大きなテーマ、というより背景そのものになっており、原作より比重を高めていますが、たぶんなるべく多くの人に分かりやすく共感を得た上で、重要なテーマも一定数の人たちにはきちんと伝わるようにしたい、という心情があったからだと想像してます。だから、生活保護の問題も決してお座なりにならぬよう描くけれど、原作よりも震災のほうに軸足を置いた。
私はそう感じました。
以下、長くなりますが、私はとても大事なことだと思うので、敢えて原作とネットからの引用を書かせていただきます。
原作の中で、福祉保健事務所の職員から笘篠たちにこんな話が語られるシーンがあります。
『 』内は原作からの引用部分ですが、一部中略ありです。
『わたしたちは福祉と謳われる組織にいながら、福祉を必要としている者たちを弾かなければならない。そういう矛盾を抱えたまま従事する者の気持ちがあなた方に分かりますか』
そして厚労省が全国の福祉保健事務所の所長を集めた会議でのことを披露する。
『席上で示されたのは各自治体間での生活保護利用率の比較です。保護率の高い自治体は怠けていると名指しでこき下ろすんです』
(つまり、保護申請を弾いている自治体のほうが評価される、ということです)
『その会議で優秀だと評価されたのが北九州市です。ご存知かもしれませんが、翌2007年にはこの北九州市から「おにぎりを食べたい」と書き残して餓死した男性のケースが明らかになりました』
その北九州市の事件をネットで検索したら、下記のような新聞記事が引用されていました。
2007年7月10日、北九州市小倉北区の独り暮らしの男性(52歳)が自宅で亡くなっているのが発見された。生活保護を受けていたが、2007年4月に受給廃止になっていた。最後に「おにぎり食べたい」と書き残していた(朝日新聞 2007年7月11日付 東京夕刊17ページ)。
彼は、長年働いていなかったわけではない。前の年である2006年の10月まではタクシー運転手だった。アルコール性肝障害になり、通院した。2006年12月7日、「病気で仕事ができない」と生活保護を申請し、認定された。だが翌年2007年2月、福祉事務所のケースワーカーから「働いたらどうか」と勧められ、生活保護を辞退したという。専門家は、この事例に関し「たとえ本人が自発的に辞退届を出したとしても、ケースワーカーは受給者が困窮する恐れがないかを検証し、受給者にきちんと説明しなければならない。自治体の対応は疑問だ」としている(2007年7月12日付朝日新聞西部朝刊27ページ)。
映画の中では、おにぎり食べたい、が
お○○○○○○
というラストになっていました。
トマトさん
ありがとうございます。
世の中が、どこもかしこもコスト削減、効率化ということで、周りの状況や他人の事情を想像する余裕が無くなってしまいました。役所の人だって、先生だって、元々は人のため、子どものためという動機があるはずなのに、いつの間にか自分の心身の健康を守るのすら大変だということになってるのだと思います。
鑑賞してきました。
原作を読まない私です。グレシャムの法則さんのコメントを読んで、補足していただいたようです、為になったのと同時に、不条理さを痛感しました。
今晩は
日本はいつから、世界の中で住みにくい国になってしまったのでしょうか・・。
高度経済成長を担ってくれた諸先輩(の一部が、と信じたい・・。)が孤独死する国。
隣の家に誰が住んでいるのかも知らない国。
自然災害を受けた民が、謂れのない誹謗中傷を受ける国。
私の様にアベノミクスの恩恵を受けた側の者が言う事ではないとは重々承知していますが。
重いテーマを正面から取り上げた今作の意義は大きいと思います。
私は、田舎に住んでいるので、今作もがらっがらの映画館で鑑賞しました。(と思っていたら、客電が灯った後に、後方から年配の方々が多数、降りていらっしゃいました。暗い顔で・・。)
何だか、とても、申し訳ない気持ちになりましたよ。
現代日本の、経済弱者に対する法制度の瑕疵をまざまざと見せつけられました。グレシャムさんが、以前仰っていたように、デジタル庁の前にやるべき仕事(含む、私を含めた民間企業)は山積していると、改めて思った作品でした。では。
元同僚がホームレスになって、市の職員や民生委員が生活保護を受けてくださいと説得するもなかなか承諾しませんでした。
地方都市ほど生活保護受給率は低いみたいですね。親戚もいっぱいいるし…
原作の大事な部分は残しながら映画は映画の良さで演出されていますね。
グレシャムの法則さんのレビューは、ネタバレさせないように、だけどしっかりと力が込められていていいですね。レビューの後半、北九州の事件は知りませんでした。
原作ではそういう背景もあったんですね!
まあ、確かにだとしても…とあう感じは残りますが(汗)いくらかは腹に落ちます。
何なら殺人事件無しの方が、とか本末転倒なところで見入る良いドラマでした。