「温かい食卓が基本になる人生のヒントが、優しく繊細に表現された映画を味わう」劇場版 きのう何食べた? Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)
温かい食卓が基本になる人生のヒントが、優しく繊細に表現された映画を味わう
テレビドラマ版が大のお気に入りの妻と久し振りに劇場映画を鑑賞する。近年の作品ではテレビ東京のドラマが優秀なのは承知していたが、この作品が映画化されるほどの人気作になるとは予想していなかった。そこでテレビドラマでは描けない映画としての醍醐味を少し期待したものの、これは見当はずれに終わる。長短合わせて、テレビドラマの世界観が大切にそのままスクリーンに映し出されていた。中年男性の同居カップルの穏やかで健全な日常の些細な心の機微を丁寧に描いて、何より心温まるホームドラマとして心地良い劇場時間を提供していた。
それは主演の西島秀俊と内野聖陽の余計な力を抜いた品のある演技の調和が良いのと、共演者の山本耕史、磯村勇斗、松村北斗、田中美佐子、田山涼成、そして梶芽衣子とすべてが各自の個性を出しながら作品の世界観に貢献する演技力を備えていたからだった。個人的には物語に若く美しい女性を絡ませて欲しかったが、この稀に見る繊細な男性映画としての要が内野聖陽の演技に見所がある点で潔しとすべきなのかも知れない。それほどに、嫉妬と妄想と絶望と楽観に一喜一憂するケンジ役内野聖陽の計算された心理表現の自然さは、絶賛に値する。元々舞台で鍛え上げた演技力を持つ役者さんのイメージはあり、テレビドラマ「とんび」の好演が印象に残る程度であったが、今回鑑賞して改めて感銘を受けた。フランス映画「Mr.レディMr.マダム」のコメディ演技で実力を見せつけたミシェル・セローとは表現法が違う。女性的な微妙な表情をみせて、実際若い女性がそれをしていたら、とても魅力的に見えるのではないだろうか。男性的な厳つい外見のケンジの中に、心配症の乙女がしっかりと内包され生きていた。この内野の演技を観れるだけでも価値のある映画、と言っていいと思う。
映画はチャップリン映画の四大要素を描けば、ある程度成立するものです。それは、食べること、働くこと、愛すること、そして夢を持つこと。和食のブリ大根から洋食のアクアパッツァまでのいくつかのメニューの丁寧で簡潔な調理過程を解説するシーンが、シロさんとケンジの愛することに繋がる個性的骨格のドラマに、今回は家族の絆について真剣に考える物語を構築する。結論を言えば、夢の共有があれば、それ以外の仕事、食事、恋愛は何とかなるものです。食べるために働く、働くために食べるだけの人生はつまらない。自分より大切にしたい人が現れ、その人と一緒に生きる夢を育むことが出来たら、素晴らしい人生になるに違いない。それが、日々の食卓に現れる。お正月に来ないでくれとシロさんの母親に言われたことは、食事の中で特別なおせち料理の招待からケンジが外された意味でとても大きい。その中からシロさんが黒豆を選んだのは、二人がいつまでも健康で仕事ができる願いを込めたものであろう。
特別な主張を声高にする映画の対極にある物静かな映画。日々の生活を大切にするためのヒントが、食育を核として優しく丁寧に語られる。勘違いの嫉妬も一寸した食い違いも良い味付けになるものです。
キャラメルリンゴのトーストも旨そう、なんちゃってローストビーフは肉次第だな、キンキのアクアパッツァはハードルが高いね、黒豆は結局市販品か、せめてブリ大根は食べたいな、肉団子は手軽にできそう、そして妻に出来そうなのは何と聴いたら、厚揚げのみそはさみ焼きだけね、と答えた。うーん、それは味が何となく予想できる。
厚揚げの肉挟みは、美味しいですよね。
ざっとレビュー拝見させて頂きました。細かな所までよく考察しておられますね。いかんせん、私にとっては結構前に見たものばかりなので、覚えているものだけにチェック入れさせて頂きました。
さて、この映画ですが、確かに、内野さんの繊細な演技が際立ち、シロさんは硬質的だなぁと思えます。そんな二人の食事シーンは微笑ましいです。