「タブーは何のためにある?」お名前はアドルフ? 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)
タブーは何のためにある?
ほぼワンシチュエーションの数人の登場人物で展開するので、舞台劇っぽいなと思っていたら原作は舞台のようだ。しかも、フランスの舞台らしい。
ある夫婦が生まれてくる子どもにアドルフと名付けようとする。姉夫婦は猛反対する。ドイツでは、ナチスとヒトラーに関するあらゆるものがタブーである。アドルフなんて名付けたらネオナチなのかと思われてしまう。
タブーを作ることについて僕は考えさせられた。ナチスのハーケンクロイツは今日、欧州ではタブーである。しかし、あのマークのモデルはナチスより歴史が古いものだ。タブー視することによって、ナチスよりも歴史の古いマークが、永遠にナチスのものになってしまった。
アドルフという名前自体もヒトラーより歴史が古いに決まっているわけだが、タブー視すればするほど、それはヒトラーのものになってしまう。本当は、ナチスやヒトラーが奪ったそれらを奪還しなくてはいけないのではないか。
ゲイコミュニティの旗印のピンク・トライアングルはナチスが同性愛者を識別・差別するためのマークだった。ドイツのゲイコミュニティは、あえてそれをシンボルにした。結果、今そのマークはナチスのものではなく、性的マイノリティたちのシンボルになった。
タブーとは誰のためのものなのだろうか。
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