「深いようで、深いようで…」ミッドサマー ディレクターズカット版 maruさんの映画レビュー(感想・評価)
深いようで、深いようで…
乱暴に言えば、
治外法権のコミュニティで一方的に彼氏に復讐した悲劇の女の子の話。
オチのダニーの笑顔が一番「まとも」にみえた。ダニーは、双極性障害の妹に振り回され、姉としての役割を保ちながら、唯一頼れる存在の彼氏が、旅行先で浮気した。その浮気の経緯が、怪しい薬によるもの・自分に対する倦怠感など「これまでの流れがあっての浮気」と、頭では理解してはいるが、ラストシーンでは恋人を生贄にすることを選んだ。
家族の問題に向き合い、心理学の勉強をして自分を保とうとしてきたが、そこで緊張の糸がバツンと切れてしまった。最後のあの笑顔は「解放された自分」への祝福にも思えた。
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とはいえ、「カルト教団」を描きたかったのか「人間の思想」を描きたかったのか。
コミュニティの設定が(雑な部分も含めて)緻密すぎて、「主人公をメイン」にしたいのか、主人公を動かすことで「カルト教団をメイン」にしたいのか、途中見方がわからなかった。
コミュニティのロケーションや伝統、文化、ルールなどは事細かに描かれているが、そこに住む人間の心理描写は少ない。
主人公vsコミュニティの対比は、圧倒的にコミュニティの描かれ方がすごいので、人が死のうと皮を剥がされようと、「そういうコミュニティ(地域性)なんだ」という風な見方しかできず、どの登場人物にも感情移入・共感がしづらかった。
何も解決には至らないまま終わるオチだが、このコミュニティの終わりは描かれていると思った。
村の繁栄のために外の人間の血を定期的に補充(誘拐から証拠隠滅の殺人まで)したり、神の声を聞けるのは身体的障害のある者だけとする村の設定などから、【計画的に村の印象を構築している】ように見えるので、村のトップの連中は、心理異常者には見えない。村人より、むしろダニーのほうが心が壊れている。「心が壊れかけてる人間」を連れてこられる、その眼があるから、ある程度近代的な価値観を持った連中が村の中では増えているのだろうと、推察できる。
おそらく、数世代前の村人たちは、本当にこの村にあるならわしや思想を完全に信じていたのだろう。しかし今では、思想を信じて正しいと想う事をするのではなく、思想が正しい事を証明するために、これまでの伝統を続けている気がする。
長く生き、外の文化に触れるにつれ、村人らの中でも疑心暗鬼が生まれ、その証拠に、最後焼け死ぬシーンでは、叫ぶ奴と叫ばない奴がでてきている。その疑心暗鬼をかき消すかのように、黄色衣小屋から聞こえる叫び声に合わせて叫ぶ村人。
一つのものだけをずっと信じていても、いつかボロが出るんだなーと感じた。
(このままでいいのか?)という疑心は、裏を返せば、(他にもあるんじゃないか?)という人間の好奇心。欲深いなぁー人間って。と思った作品でした。
おもしろくはないけど、interestingという意味ではすごいおもしろい。
奇妙で不気味で嫌な世界観は、抜群に感じられる。センスの凄い映画。