劇場公開日 2021年9月23日

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「加害者がいないサスペンス」空白 kazzさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5加害者がいないサスペンス

2022年8月5日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

WOWOWの放送にて。

不幸な事故が起き、被害者遺族、加害者、そしてもう一人の事故当事者が存在するという、この発想が凄い。
また、登場人物の一人ひとりのキャラクターが個性的ではあるがリアリティがあって、人物設定も見事だ。

古田新太演じる主人公の漁師 添田が、強烈な唯我独尊タイプの頑固者。お近づきになりたくないタイプだ。が、こういう人、いるのではないかと思える。
離婚して娘と二人で暮らしているのだが、妻が娘を引き取らなかった理由は明確ではない(と思う)。
見習いと二人で仕掛け網漁の漁船に乗っている。弟子の方は高圧的な添田に辟易としている様子。
もう一人の主人公である青柳を松坂桃李が演じる。父親からスーパーマーケットを相続して店長となった人物。
真面目なのだが内向的な性格で、人望が厚い訳ではない。望むも望まないもなく親から引き継いだ仕事に迷いなく取り組んではいるものの、どこか主体性に欠けた青年のようだ。
この二人を不幸にも結びつけるのが添田の高校生の一人娘 花音。

古田新太の恐ろしいまでの悪役演技は、その深層心理にある寂しさや孤独感までがにじみ出ていて、個性派俳優の中に天才的演技者を見た気がする。
松坂桃李も得体の知れない複雑な青年に成りきっていて、徐々に追い詰められていく様に息が詰まりそうだ。
この二人を置いてもベストキャスティングなのは、花音を演じた伊東蒼だ。アバンタイトルから彼女の姿をカメラは追う。朗らかに駆ける他の少女たちとは明らかに異なった雰囲気の少女だと分かる。粗暴な父との二人暮らしでも、荒れることなく大人しく生きている。離婚した母(田畑智子)を慕っているが、父にも気を遣っている。内気で今にも消えそうな儚げな少女。伊東蒼自身がそういう少女だとしか思えないような、ありのままに演じているように見える。

登場人物たちはみな、闇(病み)を持っていて、自分を追い詰めている。

唯一闇が感じられないのは加害者ドライバーの女性(野村麻純)だ。どうやら母子家庭で育ったようだが、母親から愛情をもらって明るく成長したのだろう。世間から嫌われるようなこともなかったと想像する。
その彼女が、この事故で自分を追い詰め、誰よりも深い闇に落ちてしまうのだ。

添田は娘が万引きしたことを信じられず、青柳に迫る。娘の高校の教諭にも迫る。
娘が命を落とした原因を追求している反面で、それは自分を追い詰めることになるのだ。青柳がどんなに謝っても、求めているのは自分が想像する真実を青柳が認めることだ。たが、青柳が語ることが真実なのかもしれないという不安もあるはずで、青柳に迫れば迫るほど自分を追い詰めることになる。

青柳の方は、添田にしつこく迫られ、世間からも責められるに至って崩壊寸前だったはずだが、添田の妄想を受け入れる妥協はしない。
ここに、青柳の壮絶なまでの戦いがある。そして彼は誰にも助けを求めない。そういうことができない人間なのだが、それによって自らを追い詰めるのだ。パートの麻子(寺島しのぶ)が必死にあなたは悪くないと擁護するのを、逆に重圧に感じている。
遂に辛抱の糸が切れてしまい、弁当屋に電話で悪態をつく。そして気を取り直す松坂桃李の演技が秀逸で、それがきっかけのように次の行動に移るという物語展開と、その演出が上手い。

パートの麻子も、花音の担任教諭(趣里)も、自分が信じていた行いに疑問符が突きつけられる。
麻子はそのギャップに崩壊していまい、教諭は正しい道に歩を進めた様子。

この物語は、狂気に近い添田の怒りがいかにして収まるのかが、結末のポイントとなる。エスカレートする破滅的な結末もあるだろうが、それでは救いが無さすぎる。
たが、添田の改心は一筋縄ではいかない。
彼に決定打を浴びせるのが、加害者ドライバーの母親(片岡礼子)だという意表を突く展開には、涙腺が崩壊した。
この一撃を添田がどのように受け止めたのかを直接的に見せないところも上手い。
そして、娘の隠し事を知り、別れた妻や漁業の弟子(藤原季節)の言葉で徐々に自分の無理解に気づいていく。
が、青柳をハッキリ赦すのではないところもきめ細かい。
その青柳にも光は指す。それは添田との和解ではない。この極短いエピソードのアイデアが素晴らしい。
いわゆる大団円でみんなハッピーな終わりではないく、心の闇(病み)を残しつつも暗くない未来を感じさせる幕引きへと進んでいく脚本と演出は実に見事。

添田が娘の画材で絵を描きはじめるエピソードは、殺伐とした物語に息継ぎの時間を持たせたのかと思えたが、これが最後に父と娘の絆を示すアイテムとなるのだから、唸らざるを得ない。
そして、とうとう我々が添田に愛らしさすら感じるに至るのだから、古田新太も天晴れだ。

kazz
kossyさんのコメント
2022年8月5日

kazzさん、コメントありがとうございます。
レジ袋もバイオマスだとか環境に気を配っているのに、なぜだか環境に悪いとか・・・最近は要らないのに「袋もお願いします」と言ってしまうkossyです。

kossy