「3種の空白」空白 everglazeさんの映画レビュー(感想・評価)
3種の空白
「空白」の類語:
空欄 余白 空所 空虚 虚無
blank space null void vacuum gap chasm desolation emptiness…..
不幸な偶然が重なった事件を通して、人間の内外に存在する「空白」を描いていると思いました。
① 自分の中の「空白」
虚無感、埋まらない孤独、隠された本心
② 自分と他者との間を隔てる「空白」
無関心、無理解、食い違い、誤解、反発、拒絶
③ 他者の中の「空白」
情報不足、未知、謎
①
心の隅々まで正直に把握し、自分自身を見つめ、一切の嘘偽りなく生きている人はどれほどいるのでしょうか。
÷÷÷
①吠えて弱さを隠し、②他者の気持ちを全く配慮しない上に、耐えられないことは罵声で突き放す添田。彼は自らの周囲を「空白」で固めている人物。話もろくに聞いてやれずに我が子が先に逝ってしまったことを、①本当の彼は誰よりも悔やみ、自分を恨めしく思ったでしょう。死のきっかけは万引きであるという不名誉、娘との貴重な時間を無駄に過ごしてしまった残酷な事実と悔恨に向き合えず、②代わりに咎と怒りの矛先を必死で他者に探し求めます。彼のやり方は、網にかかったガラス瓶で怪我をしたからと、海にゴミを捨てる人々を片っ端から乱暴に捕まえて責任を取らせようとするかのよう。
②学校のせいではありませんよ、という校長と美術教師の冷酷な無関心。生徒の指導方法は間違っていなかったか、花音を正しく理解していただろうかと不安になる担任。根拠のないネット情報、マスゴミによる偏向報道、そしてこれらに踊らされる部外者が、関係者達を問題解決から一層遠ざけてしまいます。
花音と添田の間だけでなく、青柳と彼の父親の間にも大きな「空白」があったことが分かります。その「空白」は、一方が死んでもしばらく存在し続けるものでした。
また、花音をはねた運転手中山楓は、謝罪が全く受け入れられないことで肥大化した添田との間の「空白」に押し潰されてしまいました。
添田と極めて対照的なのが楓の母親でした。事実を正面から受け止め、娘が犯した罪を認識し、娘の選択を添田のせいにはしません。無責任な子に育てた自分が悪いのだと、見事なまでに素早く添田との間の「空白」を、喪失感の共有と謝罪の言葉で埋めました。自分が責めを負うから、どうか弱い娘を許してやって欲しい…。ここはもう泣かずにはいられないシーンでした(T_T)。この後、流石の添田も少し大人しくなったような…。
①ボランティア活動に精を出し、「正しいこと」を強要する草加部の行動は、誰かに必要とされたい、求められたいという強い願望がエネルギーとなっています。②彼女の行いは典型的な善意の押し売りで、相手を理解しようとしないから、恋愛においてはもちろん、自分の理解者も現れず、活発な割に孤独な女性です。望んだ答えだけを求める添田に、「あんたの話なんか聞きたくない!」と叫ぶ彼女。この時点では両者とも、③事実で他人の「空白」を埋めようとはしていません。
他者の全てを受け入れることは極めて難儀なのに、全否定することはどうしてこんなにも容易なのでしょう。
③内面が分かりにくい、表情の乏しい人は誤解されやすくて苦労します。理解されなくて辛い思いをしていることすら上手く伝えられません。また外見から予想される性格の持ち主ではない人もいます。冒頭からヤバい雰囲気だった添田には、同情する気がなかなか起きませんでしたし、後半、急に?自重し始めたことにやや違和感を覚えましたが、これも、②違和感のままで終わるか、それとも③添田という人物の隠れた一面を知ったのだと思えるか、で差が生まれるのかなと思いました。
いじめの対象にもならないほど存在感のない花音は化粧品を万引きしていた。真面目そうな青柳はパチンコが好きで部屋が汚い。ピアスを付けた漁師見習いの野木には優しさと包容力がある。外見と中身の「ギャップ」は、映画同様、しばらく接していないと見えてこないものでした。
喪って初めて知る娘の片鱗。
言葉は交わさずとも、父娘の共通の思い出となったイルカ雲。もしまた雲を探して見上げることがあれば、空は添田を慰めるでしょう。
①を知り、②を埋めて、③を知る
面倒でもこの作業を繰り返す。
何故なら、人を滅ぼすのも、救うのも、創るのも、人次第だからです。
それは己も例外ではないのです。
明花音ちゃんは、無事に育って欲しいですね。
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また揶揄われるのかと身構えたら、チンピラ風の兄ちゃんは、母ちゃん共々、青柳の焼鳥弁当が大好きだったと言う。感謝の言葉は、無料で無制限に送れる贈り物です。本作で一番素晴らしいと思ったのはこの焼鳥弁当のシーンでした(T_T)。こういう「焼鳥弁当」がたまにあるから、人は苦しみを乗り越えて生きていけるのだと思います。ただただ辛いだけの仕事で嘆いていた頃、いつもの帰路を急いでいたら、手術前は身の回りのことすら1人ではできなかった患者さんが、病院前の交差点で、遠方から来たご家族か親族に街を案内していました。それを見て、あぁ、このために全ての苦労はあったのだと、溢れてくる涙を堪えることなく帰りました。あちらは私に気付かなかったし、言葉で感謝された訳ではないけれど、少なくとも一時の私は、この「焼鳥弁当」のためだけに生きていました。
私の①が埋まった瞬間でした。
「焼鳥弁当」の感動を蘇らせて下さり、ありがとうございます。思い出す度に泣いてしまいます。
予告編では良さが充分に伝わっていないのではないかと思える秀作でした。
こんばんは😊
凄いレビューをありがとうございました😊
空白のタイトルの意味が少しわかりました。わからなかったんです。忘れていたところもありますが、
焼き鳥弁当のところ、良かったですね💕しっかり覚えています。