「しかしこれが、彼女たちのすべてではない」僕たちの嘘と真実 Documentary of 欅坂46 古元素さんの映画レビュー(感想・評価)
しかしこれが、彼女たちのすべてではない
私は平手友梨奈に、そして楽曲に、強く心を惹かれていた。キャプテンや副キャプテンその他メンバーのことはあまり存じていない。ライブ映像も多数収録されていそうだ、彼女のことをさらによく知りたい、そう思い鑑賞に至った。
私がこの映画を観て一番魅了されたのは、平手友梨奈ではなかった。彼女のバックダンサーと自称し、彼女を支え、涙を流しながら過去を話すメンバーたち。そう。どこまでも優しく、しかしあの楽曲を踊り歌い上げる闇を抱えるメンバーたちであった。
メンバーのうち誰かは、平手に良い印象を持ち合わせていないと思っていた。違った。彼女たちはほぼ全員、平手の才能に魅了されていたのだ。キャプテンの菅井も「私もてちのファン。後ろから見ていて、この曲ではこういう表現をするんだって惚れています(曖昧)」と述べていた。平手が公演を急遽休んだときに言った斎藤の「センターだし計り知れない緊張があると思うが、他のメンバーのことも考えてほしい」や、平手の脱退について聞かれたときに発した小林の「他のメンバーとは違うことを考えているから、ここでは言いたくない」といった発言たちが人間らしく思えるほどだ。しかしメンバー全員の気持ちはひとつであったことは、黒い羊のMV撮影後の全員が平手を囲み涙を流していたシーンから伺える。
しかし彼女たちは徐々に、平手がいなくても欅坂46が成立することを示していく。平手の代役で様々なメンバーが最初は「絶対したくない」「お客さんが平手がいないことを知りがっかりする様子が肌でわかる」と言っていたが、後半では二人セゾンの平手のソロパートを小池がアドリブで踊り「二人セゾンで平手が秋冬を表現するなら、私は春夏を表現したい」と言うように、メンバー自らが意思を示す部分には心打たれるものがあった。
本来であればこの映画はこの辺で終わったのだろう。だが新型コロナウイルス感染拡大を鑑み公演延期。その間でもさらに作品はブラッシュアップされ、彼女たちが改名すると発表する場面も盛り込まれた。ここで菅井は涙ながらに決意表明をする。インタビューの途中でも彼女は涙を見せていた。私は強く彼女に惹かれた。彼女が、彼女たちがしたい姿で、アイドルをしてほしい。私は強く願った。
もちろん平手についても印象が変わった。否、新たに思うことがあった。彼女はMVに出演しなかったり、ライブを急遽欠席することも少なくない。私は今まで、彼女は自分の中で今日はできない、など鬱的な要素があるのかと思っていた。違った。彼女はメンバーが、欅坂46が大好きだからこそ、自らの圧倒的な才能に悩んでいたのだ。「私ばかりが目立ってしまう」と言ってグループ活動を休むシーン、昨年の東京ドームでの公演後にメンバー一人ひとりと抱擁を交わすシーンが示している。
これを観てようやく、平手以外のメンバーについて事細かに知ることができた。これも平手の願いのひとつかもしれない。そして新たなグループについても、まっすぐに応援したい。彼女たちがしたいアイドルを、彼女たちの手で創り上げてほしい。そう強く願っている。