「古典的名作透明人間のアップグレード」透明人間 冥土幽太楼さんの映画レビュー(感想・評価)
古典的名作透明人間のアップグレード
ウェルズの古典的名作をアップグレードするにあたって、色々と面白い試みがされている。
現代光学をモチーフにした全身に小型カメラが搭載されている独特な造形の透明スーツ、
DV彼氏とそれに振り回されるハメとなる彼女が個人で問題を乗り越えていくという社会問題やジェンダー問題を取り入れ、極めて現代的な造りとなっている。
そして透明人間を現代的な映像で魅せるにあたってハリウッドでは一体どのようなアプローチをするのか?というところも見所である。
また、自分の体験を誰にも信じてもらえず徐々に孤立して狂人扱いされてしまうという恐怖、常にヒトに見られているかもしれないという恐怖、これはこのような作品を作るにあたって格好のモチーフであり、そこら辺も上手く描けている。
以下、問題点を挙げる。(ここからネタバレあり)
・透明人間の目的が赤子である以上、主人公が殺される心配がないこと。
厳しいが、この時点で少しスリリングさにかける。
その分周りの人間が犠牲になるのがショッキングではあるのだが、やはり「絶対に殺される事はない、また身体的にあまり危害を加えられる心配さえも少ない」
このことが恐怖要素を幾分か削ぎ落としてしまっているように思える。
・本来は賢い設定だあるはずの登場人物たちに知的な要素があまり感じられないところ。
彼氏は天才科学者であり自分の都合の良いように人をマインドコントロールするサイコパスのような人間であるという。
しかし、それにしてはかなり脇が甘いような気がする。
まず彼の目的は彼女に自分の子供を産ませること(なぜ彼がそこまで子供に執着するのかはわからない)
なわけだが、その為に彼女を服従させる方法としては、やはりあの家族を人質にとって彼女を精神病院に閉じ込めたまま脅し続けるのが最善策の訳だ。
(実際にその話を透明人間が彼女に持ちかけたとき、彼女は一番狼狽えている)
その戦法は簡単に思いつくはずだし、高い確率で安全に彼女の子供を手に入れることができる。
とりあえず他人を脅しに使って隔離しておけばどうとでもなるのに、わざわざ暴力に走るのが全くわからない。
つまり、あの後半の透明人間の凶行が理解できないのだ。
あれは兄貴が弟に操られて行ったことらしいが、
(兄貴を犠牲にしたお陰で彼は被害者ズラしてシャバに戻った訳でおそらくそういう戦法である)
そうだとするとまず弁護士である兄貴のほうも相当抜けてるし、そのあと彼女を説得すればなんとかなるとでも思っているあのDV彼氏はちょっと甘ちゃんすぎないか?
(そういう彼氏の彼女に対するツメの甘さは例えば二人が出会った日をパスワードに設定して透明スーツを盗まれるところなどからも伺える。ある種のキャラクター設定ではあると思う、そしてそこが案外可愛らしいところでもある)
また、主人公側だが、証拠もなく透明人間なんて非現実めいた話をすれば周りから精神病扱いされることを体感していながらそれでもおかしな発言をやめないところがちょっとリアルじゃない気がする、現実であったとしたらマジでそんなことするだろうか?
例えそれが真実であろうとも、あまりにも超現実的な現象に対しては、周りが受け入れてくれる証拠をみつけるまではそんな発言を控えておこうと思うのが人の心というものではないだろうか?
そこで自分で自分の首を絞めるような行動を連発するあたりが(妹の死に関してもちょっと主人公は計画がズボラすぎる)ちょっと主人公サイドにいらつきを覚えてしまう要因になってしまっている。
ここらへんの失態は映画的な展開をしていく為に必要な要素ではあるが、ちょっと強力な敵と戦う上での知能指数が足りなすぎるのではないだろうか笑
とりあえず全キャラクターの深層心理がよくわからなかた、というよりかは現実的に地に足のついたキャラクターになりきれていなかった、それが物語の消化不良や粗に繋がった。
ここが僕の考える本作の問題点です。