「泡沫の如く消えたシェアード・ユニバースの残滓は、大いなる可能性を秘めていた…!」透明人間 たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
泡沫の如く消えたシェアード・ユニバースの残滓は、大いなる可能性を秘めていた…!
1933年公開の映画『透明人間』を現代風にリブート。
恋人のDVに耐えきれず逃げ出した女性セシリア。彼女を襲う透明人間の恐怖を描いたサスペンス・ホラー。
原作は「SFの父」とも称されるイギリスの作家、H・G・ウェルズが1897年に発表した小説。
この原作も1933年版の映画も恥ずかしながら未鑑賞…💦
とはいえ、透明人間はもはや古典として誰でも知っている存在だと思うので、これらを観ていなくても本作の鑑賞にはなんら影響は無いのではないでしょうか。
勿論観ているに越したことはないと思うけど。
さてさて、この映画。元々「ダーク・ユニバース」というシェアード・ユニバースの一作として製作される予定でした。
米映画会社の老舗ユニバーサル・スタジオは1920〜1950年代にかけて怪奇映画を量産しており、それらは「ユニバーサル・モンスターズ」と総称されています。
皆さんご存知マーベル・スタジオが「MCU」というシェアード・ユニバースを作り上げ、それが歴史的な大ヒットとなった為、雨後の筍の如く映画界には様々なシェアード・ユニバースが誕生したわけですが、ユニバーサル・スタジオが満を持して発表したのが「ユニバーサル・モンスターズ」の世界を一つに繋げようと試みた「ダーク・ユニバース」だった訳です。
しか〜し!このユニバースの第1作『ザ・マミー』が興行的にも批評的にもコケてしまう…。
その結果、「ダーク・ユニバース」はなんとたった一作でその幕を下ろす事になってしまった…悲しすぎる😢
この『透明人間』も、元々はジョニー・デップが主人公として登場する予定で、メインビジュアルでもドヤ顔のジョニデが紹介されていましたが、全てなかったことに…。
とはいえ、企画だけは残滓のように残っており、まぁほとんど期待されていなかったのでしょう。700万ドルという低予算で本作は制作されました。
しかし!蓋を開けてみるとこれが大ヒット!!全世界で1億3000万ドル以上も稼いでしまう快挙を達成!🤩
製作費の3倍稼げば成功という映画業界ですが、この映画はなんと20倍近くも稼いでしまいました。スゴい!
この顛末だけみても、計画通りに物事が進まなくても腐らずに成し遂げれば良い結果が出ることもある、という教訓を学ぶことができますね😁
さてさて肝心の映画内容ですが…。
まず『透明人間』という直球ど真ん中なタイトルが素晴らしい!タイトルだけでどんな映画かほとんど分かってしまうという潔さ、大好きです😍
設定もなる程!非常に現代的にブラッシュアップされている!
王道ホラーでありながら、女性の人権問題も組み込んだ社会派な一作。虐げられる女性やリベンジ・ポルノに対する問題をストレートに描いております。
さらに、いつでもどこでもオマエを観ている…!という感じはジョージ・オーウェルの『1984年』を思い出す。
行き過ぎた監視社会へ警鐘を鳴らすというメッセージも感じました。
一昔前なら薬を飲んで透明になるところですが、本作では光学迷彩により透明になるというリアリティのある設定。
実は現代に透明人間はすでに存在しているのでは…?と思わせてくれます。
実際アメリカ軍辺りはこのくらいのスーツは秘密裏に開発してそう…🤔
個人的には薬を飲んで変身するというバカっぽい設定は結構好きなので、このリアル路線にはちょっとがっかり😞
本作の透明人間はスーツを着込んでいるので、フルチンじゃない…。
凄い怖いけど実はフルチンというバカっぽさも透明人間の魅力だと思うのでここにもちょっとガッカリ…😔
まぁ真面目な話、透明人間の全裸は性犯罪へのメタファーであると思うので、フルチンというのは結構重要だと思うんですよね〜。
特に本作はフェミニズムをテーマとして扱っているのだから、男性主権の象徴としての全裸を悪に持ってくるというのは効果的だと思うけどなぁ。
恐怖の演出もなかなか凝っています。
冒頭から説明のない脱走劇が始まる。「すでに透明人間の攻撃は始まっているのか?」というクエスチョンが頭をよぎる為、この脱走劇から観客は目が離せない。
その後この脱走劇の全容が説明される。
セシリアは恋人のDVに耐えきれず逃げ出したわけだ。
その後、恋人のアイドリアンは自殺したのだということが判明。
彼の莫大な財産がセシリアに転がり込む。
ほっと一安心かと思いきや、奇妙な感覚が彼女にまとわりついてくる…。
ここで彼女のキャラクター像に違和感を覚えた。
あんなに怯えていたのに、遺産が手に入ったあとはものすごく幸せそう。
なんか現金な性格だな、と思ったのですが、それもそのはず、この作品で徹底して描かれているものは人間のエゴ。
恋人を支配したいというエイドリアンのエゴの直後に、ムカつく恋人の遺産だが、金は手に入れたいというセシリアのエゴも描かれているわけです。
セシリアのエゴは最終的にエイドリアンを何がなんでもぶっ殺したいというものへ移っていくわけですね。
いや、しかしこの映画の恐怖描写は非常に上品。
見せない恐怖というツボを上手くついてくれます。
キッチンの映像が定点カメラで映しだされていると急にフライパンの火力が…🔥そして包丁が一本スッと姿を消す。
ここは上手かった。なんか絶対居るやん…!という恐怖を最大限に演出しています。
そして遂に姿を現す透明人間。ここも怖かったですね〜😱
白いペンキがベチャ!でうわぁ〜!
このペンキ、ちゃんとその前のシーンで同居人のジェームズが壁の塗り替えで使っている。このシーンに限らず、本作は全体的に伏線が周到。丁寧な作りだと感心します。
この後、セシリアはエイドリアンの家へ行きスーツを発見する。
このシーン、急に出て来たおじさんがセシリアをかなり遠くのお家まで乗せてくれており、このおじさん一体誰?と思ったのですが、とあるブログを見て納得。
Uberタクシーってやつなんですね。日本では馴染みがないからわからなかった。
他人の自家用車に乗るのって怖くないのかな?
この家でのシークエンス、不満がひとつ。
エイドリアンの飼い犬ゼウスがあまり活かし切れていない。🐶
もっとゼウスと透明人間のアクションとかがあると良かったかな。
もしくは、ゼウスのリアクションが普段と違う描写を入れて、それによって透明人間の正体がエイドリアンではないということに気付くシーンとかがあっても良かったかも。
もしくは、ゼウスを容赦なく殺して透明人間の残虐性をアピールするとか。飼い犬まで殺すとかヤベー奴じゃん!みたいな感情を抱かせて欲しかったな。
この後の中華料理店での殺人シーンから映画のトーンも変化。スラッシャー映画のような趣に…🔪🩸
ここは本当にビクッとした。まさかあんなにあっさりと、そして残酷に殺すとは…。
そこまでセシリアを追い詰めるのかよぅ…。やりすぎだよぅ…。と誰もが思ったはず。
本当に本作の透明人間の嫌がらせは半端ない。
セシリアの面接台無しにしたり、布団をめくったり、女の子殴ったり、勝手にメール送ったり…。
めちゃくちゃみみっちいけど、それが逆にストーカー的なリアリティがあって怖い。
みみっちい嫌がらせを続けていたと思ったら、急に殺人をドンっ!だからインパクトが半端なかった!
ここまでのホラー要素は良かったのですが、このあとはアクション映画っぽくなってしまい、恐怖感が薄れてしまった。
結局銃でバンバンするんかいっ!プレデターじゃねぇんだぞ。
最後までホラーをやり通して欲しかったなぁ…。
クライマックスは賛否が分かれるところではないだろうか。自分は蛇足に感じてしまった。
エイドリアンは本当に死んでいて、実はサイコパスだった兄が全ての真犯人だった…!で良いんじゃないの?
エイドリアンの死は偽装されたものだった…!って、一体どうやって偽装したのよ?
なかなか死を偽装するのって難しいと思うけど。
色々方法を考えることは出来るが、エイドリアンが生きているのならその方法は明示して欲しい。
まぁ真相が何なのかぼやかす終わり方は嫌いではない。
でも、エイドリアンが真犯人だとすると辻褄が合わんような気も…。
精神病院でセシリアを襲ったのと、ジェームズの家でシドニーを襲ったのは別人だったという説があるようです。
確かにジェームズの家では故障しているはずの光学迷彩が正常に作動しており、この別人説の有力な証拠となっています。
ジェームズの家で死んだのはトムだったのだから、病院にいたのはエイドリアン。
とすると、あの襲撃の後エイドリアンは家に帰り手足を紐で結んで隠し部屋に隠れなければならない。
…これ1人じゃ無理だわ🤷♂️
実はもう1人兄弟がいたりして😅
本当にエイドリアンは被害者だったという方が、物語的にはしっくりくる(それはそれで疑問点も多いが)。
しかし、セシリアは真実を解明することなく彼を殺害する。
セシリアにとってエイドリアンが犯人かどうかなんてもはやどうでもよかった。ただ彼の死を望んでいたのだ。
ここにホラー映画らしい後味の悪さと、人間のエゴを描くというテーマが顕れており、うーん上手い脚本だなぁと唸ってしまった。
ジェームズは警官という立場でありながらセシリアの殺人を見逃す。
ここ、単純に友達だから彼女を見逃したのかと思っていたんですが、とある方のブログを見てなる程!と思った。
彼の娘シドニーの学費はセシリアが受け取るエイドリアンの遺産から払われる約束だった。
つまり、セシリアによるエイドリアン殺しをジェームズが見逃したのは、彼女から学費をもらうためだったのだ…。
この観点には気が付かなかった〜…。確かにその通りだわ。
ジェームズも彼のエゴにより最終的な決断を下していたんですね!
いや〜、本当によく出来てるわ!🤩
ホラー映画でありながら2時間以上のランタイムなので、ちょっと間延びしていると感じるところもある。
特に前半1時間近くは透明人間が出てこないので、まだ本編始まらないのかよ…と退屈してしまった。
しかし、古臭い透明人間というキャラクターを現代風にアレンジして蘇らせたのは素直に凄いと思うし、ハラハラするホラー要素を存分に味わうことができる。
大味な作品の多いホラー映画だが、本作はまとまりの良い高級感あふれる作品となっている。
ホラー映画好きなら一見の価値あり!オススメ!
※どうしても気になるのはセシリアのお腹の赤ちゃん…👶
あの後どうなったのかな。
ヒロインがモンスターの子供を妊娠しているという展開、ホラー映画の大家クローネンバーグの『ザ・フライ』を思い出す。
まさか『ザ・フライ2』のように、お腹の赤ちゃんが成長し、透明人間になるという『透明人間2』を製作する予定が…!?