劇場公開日 2020年7月10日

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「4833,121417」透明人間 KinAさんの映画レビュー(感想・評価)

4.54833,121417

2020年7月22日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

「透明人間」って、概念みたいなものだと思っていたよ…。
常軌を逸した執着から常識を超えた展開が生み出され、攻め入るような緊迫感に襲われて終始息を荒げて観ていた。

愛する女に逃げられて自ら命を絶ったエイドリアン。
自身を縛り続けてきた彼の中から抜け出せたはずのセシリアに、死してなお虐待の手が伸びる。
罠だらけのシナリオに嵌まり、どんどん孤立して精神を蝕まれていく様が本当にキツい。

囚われ続けたが故の幻覚と副人格の現れなのか、霊的な存在の悪戯なのか、物理的に透明になったのか。
誰がおかしいのか分からない混乱と恐怖の中、確実に存在感を増していくエイドリアンの所業が気持ち悪い。
白く吐かれた息、シーツに浮き上がる足跡の何と恐ろしいことよ…。

追い詰められるうちに変化していくセシリアの目付き、危うさと覚悟を孕んだ表情にドキドキした。
「彼」への警戒心と抵抗心を露わにすればするほど異常者扱いされ、弱まりつつも、絶対に屈しない強さも生まれていく、絶妙な状態。
目には目を、歯には歯を、執念の策には執念の策を。ラストのゾクゾク感よ。堪らない。

エイドリアンの異常性を直接的には見せないつくりがまた意味深だと思った。
セシリアが彼の元から逃げ出すところから映画が始まるので、それ以前のことはほとんど分からないまま。お互いの家族や友人関係も詳しくは触れられないまま。
見方を変えればまた違った結末が見えてきたりして。
良いバランスの余白だなあ。好きだよ。

ストーリーの面白さはもちろん、映像的な面白さと快感もかなり強い。
海岸のスタイリッシュな家と装置はまるでSF。
見えない相手とのアクション、非現実的なのに痛々しく激しい暴力描写。
浮き上がるナイフや拳銃に震えてしまう。
「何かが居る」ことを示し続けるカメラワークも最高。キレてるわあ。

興味深いのが、透明人間には一種の「無敵感」が生まれること。
「透明人間になったら何をしよう?」と考えるとき、思いつくもののほとんどは違法で倫理に反した行動になるじゃない。

正体を消して好きに動けることで、自分の欲望や悪意は簡単にエスカレートしていくものだなと思った。
もしかすると、ネット上の匿名の発言が過激になりやすいのも同じような現象なのかも。なんて思ってみたり。
人を殺さずに生きていきたいよね。欲望の実現もしたいけどね。

シドニーのキャラがとても好き。
完全に面白かった。

KinA