劇場公開日 2020年10月23日

「「鬼」のような母の愛が、「人を妬まず、人を恨まず」とハルの強く優しい心を育てた」瞽女 GOZE h.h.atsuさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0「鬼」のような母の愛が、「人を妬まず、人を恨まず」とハルの強く優しい心を育てた

2020年10月29日
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期待に違わない、いやそれ以上の魂を揺さぶられる、凄まじい傑作。

明治から大正、昭和へと日本が近代工業社会へと変貌するなかで封印されるようになった、近世の旅芸人や瞽女の文化や世界。

盲目の実娘がひとりでも生きていけるように、鬼の気迫で娘を育てる様は、母の愛と葛藤が画面を通じて伝わり、観ていてとても息苦しさを感じざるを得ない。

印象的なのは、瞽女さんたちを支えていきた「コミュニティ」の存在。それは近代化の波のなかで消失してしまった、地域的なもの、パブリックなものだ。障害を持つ方に対するインフラや道徳教育は現在のほうが進んでいるのかもしれない。しかし、彼らをサポートしていくような地域社会のなかでの寛容さは、今よりも近世の日本が持っていたような気がする。

あきらかに今の私たちは、生産性、効率性の名のもとに障害者を表舞台から遠ざけ、彼らとの距離をおいている。そのいきつく先が、2016年におきた相模原殺傷事件とネットでの不寛容な反応だ。それは社会的分断が顕在化する米国だけではなく、経済的なものだけではない精神的な日本社会の「貧しさ」。本作のようなテーマを歴史的なタブー扱いすることなく、社会に閉塞感のある今だからこそ私たちは過去と真摯に向き合う必要があるのでは。

作品のなかで気になったのは、全般的にナレーション箇所が多く丁寧すぎる点。瞽女さんの世界に疎い方が多いことを配慮してであればやむなしの措置か。

東京ではシネリーブル一館の上映だが、さらに上映館が増え多くの人に見てほしい作品。

atsushi