「挫折し、あきらめ、妥協してきた人の魂を震わせる、あまりに純粋で澄み切った一作」おばけ 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
挫折し、あきらめ、妥協してきた人の魂を震わせる、あまりに純粋で澄み切った一作
謎めいたタイトルだがホラーではない。ある意味、映画作りをもう一つ上の次元から俯瞰した究極の“メタ映画”とでも言おうか。機材を抱えて一人で山に入り、刻々と移りゆく風景を自分の姿も込みでカメラに刻む。さらに物語は、自作の上映会、家族生活、それを見つめる「星たち」との交流にまで及んでいく・・・。かくも監督の手によるセルフ・ドキュメンタリーのようでいて、一方でそれをリアリズムからファンタジーにまで昇華させていく野心的な側面すら併せ持つ本作。全体を包み込む優しさとユーモアがたまらない。
要領の良さなんてものはここには一切ない。横たわるのは圧倒的な孤独と、表現のためなら犠牲をいとわない執念。そういう風にしか生きられない愚直なまでの純粋さ。その全てが愛おしくなる。本作の前では、きっとハリウッド超大作の監督さえもが初心を思い起こし、激しく共振するに違いない。届く人には届く。刺さる人には深く刺さる傑作だ。
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