君は永遠にそいつらより若いのレビュー・感想・評価
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願いは時を超え、時代は変わる
津村記久子が2005年、当時20代後半で発表したデビュー小説の映画化。津村は新卒で入社した印刷会社でパワハラを受けて1年足らずで退職した経験をインタビューなどで明かしており、“虐げられる存在”の視点が本作の登場人物たちにも確かにある。それは組織や集団や社会のルールにうまく馴染めない人への攻撃であったり、処女や童貞に対する侮辱や中傷であったり、男から少女への性的暴行であったり、育児放棄された子であったり。
主人公・ホリガイ(佐久間由衣)は大学で知り合ったイノギ(奈緒)の少女時代の痛ましい体験を聞かされ、その場にいて助けられなかったことを嘆く。直接会ったことのない行方不明の少年を想い、「君を侵害する連中は年をとって弱っていくが、君は永遠にそいつらより若い」と伝えたいと願う。もちろん時間をさかのぼって過去を変えることはできないが、そうした願いを伝えることで、誰かの心に変化をもたらし、現在と未来を変えることにつながるかもしれない。弱者に向かって上から頑張れ!と声援を送るのではなく、同じ地平で寄り添い一緒になんとかしようもがくスタンスは、津村自身もハラスメントのサバイバーであることことが大きいのだろうと想像する。
吉野竜平監督が原作小説の空気感を誠実に映像化しようと努めたことは確かに伝わってくる。惜しいと感じたのは、終盤でホリガイが団地のベランダの外側から階下の住宅に侵入し、ネグレクトされた子を探そうとする場面。ホリガイが部屋に入るより前に室内で待ち構えたカメラが彼女を“客観的に”とらえるのだが、ここはホリガイの主観視点か、あるいは彼女の後ろから追随する映像によって、不法侵入を承知で未知の空間に分け入り、子供を救い出そうとする内心の緊張や高ぶりを表現すべきではなかったか。原作でもここの一連の描写は大きな山場になっていて、読者もホリガイの内面に同化してハラハラしながら読み進む部分なのだが、客観映像の演出ではそうした盛り上がりにやや欠けるように感じられた。
とはいえ、佐久間由衣と奈緒の好演は見応え十分。奈緒の役・イノギは「マイ・ブロークン・マリコ」でやはり奈緒が演じたマリコにも少し通じる部分がある。原作小説も素晴らしいので、未読の方はぜひ。
【”友人の心に負った傷に気付いたら、眼を逸らさずにそっと寄り添う大切さ”を社会人になる直前の不安定な気持ちと共に描く。現代社会に蔓延るネグレクト、児童誘拐に対し、激しい怒りを示した作品でもある。】
ー 序盤は、就職先も児童福祉職に決まり、後は卒業論文提出だけの、どこか覇気のない堀貝(佐久間由衣)が、ヒョンなことから猪乃木(奈緒)と出会う所から始まる。ー
◆感想
・大学の飲み会で酒癖の悪い男子学生に”お前なんかに、児童福祉職が務まるかよ!”と絡まれるシーン。
ー ここが、最後半、効いてくるのである。
だが、彼女はTVで偶々見た、数年前に行方不明になってしまった男の子の事を調べていたのだ。それが、きっかけで児童福祉職を選んだのだ。
又、彼女が選んだ卒業論文のテーマも、その事に影響していると思う。ー
・バイト先で一緒になった男の子の、真剣な悩みに、正面から向き合わない(向き合えない)堀貝の姿。
ー が、ここから、彼女はイロイロな経験をして、人間として成長していくのである。>
・自宅の下の階に住んでいたネグレクトされていた男の子を自宅で預かっていたホミネが、突然死んでしまう。ホミネの親友が、鳥取の葬儀に出席した時に知った真実。
ー ホミネは、自分が男の子を救えなかった事が、心のどこかに鬱々とした思いとして、抱えていたのではないかな・・。
ホミネが遺した、堀貝が卒論作成のために頼んだ、アンケート用紙の裏に書いてあった、明るい感じのキャラクターが、却って彼の苦しみを表している気がした。
そして、その絵に、カラフルな彩色を施した猪乃木。彼女も又、心に深い傷を負っていた事が中盤分かる。きっと、あのカラフルな彩色は、彼女のホミネに対する”想い”ではなかったか・・。ー
・堀貝と猪乃木の間は、徐々に縮まり、猪乃木が言った衝撃の過去。誰にも見せなかった耳の傷。
ー あのような事件は、日本でどれくらい起きているのだろうか・・。、猪乃木が、大学を休学して、お婆ちゃんと住んでいた小豆島に戻ったのも、未だ傷が癒えていないからではないか。ー
・堀貝が、ホミネの家で、彼の親友から形見分けを貰うシーン。彼女は、突然ベランダから身を乗り出し、ホミネが助けようとした男の子の家に”命懸けで“降りる。
そこで、見たネグレクトの酷い実態。
<赤く染めていた髪を黒髪に戻し、堀貝が猪乃木に会いに行くシーン。
”暫しの沈黙の後、猪乃木が、か細い声で言った言葉”良いよ、待ってる・・。”
大学生から社会人になる精神的に不安定な時期に、堀貝が経験した、世の闇。
だが、あのラストシーンを見て、磯貝は良い児童福祉職員になるだろうな・・、と思った作品。>
<2021年10月31日 刈谷日劇にて鑑賞>
どうしたって、しんどい
「なんか楽しい大学生活の話かな?」と観てるんだけど、徐々に話が重くなってくの。
みんな色んな事情を抱えていたり、抱え込まされたりして、それで、それがどうにかなったかというと、特にはどうともならない。それでも……って話と思ったな。
佐久間由衣が良かったよ。こんなに演技うまいんだと思った。引き出した監督がすごいのかな。
話もだいたい自然に流れていって、テレビで未解決誘拐事件が流れるあたりは強引なんだけど、まあ、それがガツンと投げ込まれる話でもあるので、そこは強引でもいいのか。
ほぼ全員、救われてはいないんだけど、それでも救いがないというわけではなくて、ここを書いた原作の津村記久子と、映像化した吉野監督がすごいなと思ったよ。
二人の女優の演技と存在感
日常に潜む様々な闇に翻弄される子どもたちというシリアスな問題を描いていて、これは今の時代だからこそ作られてよかったと思いました。
これから社会に出る大学4年生の主人公・堀貝(佐久間由衣)。
主人公と知り合った、同じ大学の3年生・猪乃木/イノギ(奈緒)。
彼女たちの演技と存在感が素晴らしかった。
己の感情を言葉にできず、責任あることからは逃げて適当に生きてきながらも、堀貝には根には優しく儚くも真摯な心が隠れていて、それが眩しい。
イノギが言う「誰もが気づかれないように隠している【痛み】や【傷】」
「それを、気づいてあげたい」という堀貝の言葉。
架空のキャラでありながら、彼女たちの「これからの人生」と、堀貝の出会う「子供たち」が気になってしまいました。
それは生き生きとしたキャラクターであると同時に、社会の闇の犠牲になっている多くの子供たちの映し身でもあるからなのだろう。
あと、若者を見守りたくなるのは、私が歳を重ねてきて、親や友人ら多くの「死」に立ち合い、報道で残酷な事件を見聞きしてきてしまったことも関係しているかもしれません。
舞台挨拶鑑賞
中盤までは、つまんなかったです。
タイトルの意味がわかりませんでした。
キスにはビックリ、その後のラブシーンも。
自殺は、ビックリですね!
知り合いが以前助けたことのある下の階の子供を見に行くシーンよかったです。
ホリガイ児童福祉士はぴったりですね!
後半よかったです。
モラトリアムから、大人になるまでのあれこれ
あと少しで大学を卒業する一人の女子学生が、のらりくらりと生活してるところ、さまざまな出会いや事件に遭遇しながら大人になっていく話。
そう纏めると、普通の何処にでもあるステレオタイプの映画のようで全く違う。コメディや下ネタっぽい要素も入れながらシリアスな社会問題も絡み、独特の空気感で彼女の胸のうちを紡いでいく秀作。
主人公は部屋も汚いし言葉遣いも行動も雑だし、見た目もお洒落な女子大生ではなくサバサバ系。就職も決まって卒論以外はバイトを少ししながら日々をやり過ごしている。
でも実は自己肯定感が低く自分の性的嗜好にも悩み、人との距離の取り方や社会問題に対しても、表にあまり出さないが真面目に真摯に考えている。そんな生活の中で、ネグレスト、自死、身体的コンプレックス、レイプ、性的嗜好など、自身を含めそれぞれの問題を抱えた人たちに、ちゃんとその人の立場に立って対応できていたのかと葛藤する。
それぞれで一本の映画が撮れそうな重いテーマが次々と出てくるのだけど、深く掘り下げず、かといって浅くもない程度に描き散漫な印象を与えるかもしれないが、彼女がそれらに悩み、ホスピタリティや正義感をもって成長していく姿が清々しい。
佐久間由依ちゃんは、「隠れビッチやってます」でもサバサバ女子を好演してたけど、今作も凄く良い!菜緒ちゃんも「先生、私の隣…」の役柄とは全く違うキャラを上手に演じてた。
ちょっとぶっ飛んだ過激な表現もあり、ご年配の方の評価はもしかすると低くめになるかも?
「処女」
特大級のパワーが秘められた作品でした。
前半は割とゆるい感じで進む物語が、後半になって自身のコンプレックスや意識のない差別侮蔑、暴力や悲壮感、コロッと死んでしまう知り合いなどを畳み掛けるように描いててとても辛くなりました。
でもその中で主人公が生きがいを見つけていくのを、明るく前向きに描いていて心にグサっと刺さりました。「処女」を世界一美しく魅せてくれる、そんな映画でした。
鑑賞日 9/8
鑑賞方法 オンライン試写会にて
素晴らしい作品でした。
観ていて辛いシーンが幾つか有りましたが、何と言いましょうか、ゆっくりと優しく世の中で悩み苦しんでいる人々に寄り添う様な視点が素晴らしいと思います。
また、これは誤解を生みやすい評価かも知れませんが、終盤の主演2人のキスシーンはとても美しかった。
美しく・切なく・儚さを感じさせる素晴らしいシーンでした。
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