「苦しい気持ちになるが見る価値はある」17歳の瞳に映る世界 Junさんの映画レビュー(感想・評価)
苦しい気持ちになるが見る価値はある
最初にタイトル(原題)が
NEVER REARELY SOMETIMES ALWAYS
と順に表示されて、「?」となるのだが、この映画の最も重要なシーンでこの言葉が繰り返し出てくる。
病院のソーシャルワーカーが、中絶の処置にあたり主人公のオータムに多くの質問をする。そして、最も答えにくい、踏み込んだ質問の回答については、この4つの選択肢からどれが当てはまるか、回答させる。
質問の最初のほうの、質問には、Yes/No と躊躇なく即答していたオータムが、なぜ妊娠に至ったかを聞く質問については、言いよどみ、断言を避け、苦しい質問に初めて感情を表に出す。 感情が見て取れなかったそれまでの表情との対比で観ている側も苦しくなる。
ソーシャルワーカーに「手術には私も付き添ったほうがいい?」と聞かれて そうしてほしい、と即答するところにも、本当は不安で仕方がない子供らしさが垣間見えて切ない。
オータムが経験する病院でのやり取りや手術すべてが、17歳の女の子が体験するには残酷すぎる。
スカイラーの存在を救いとして、それらを淡々とした表情で描き、重苦しいだけの残酷話にしなかったのは監督の優れた感覚だろう。画面の抑えた色調の中でも、女の子2人のきれいな瞳の描写が印象的だ。
主演の2人は、ほとんどずっと感情を秘めた表情で難しい役どころだとおもうけれど、素晴らしい演技だと思う。
映画の中では何も語られないので、すべて観る側の想像に任せられるのだが、年の離れた妹たちと、オータムの父にしては年若そうに見え、オータムに対して父親として振舞わない父。逆に母親は、反抗期気味に見えるオータムにも真っ当に接する普通の母親のように見える。ここから、オータムは母の連れ子で父は継父なのだと予想できる。
オータムが母親に、どうして頑なに何も打ち明けられないのか?を考えると、やはりオータムを妊娠させたのは継父と想像できる。
きっとスカイラーはわかっている。だから 「手術ってどうだった?」は聞いても「なぜそうなった?」は聞かない。
あんまりちゃんと聞いていなかったのだが、冒頭のシーンでオータムが歌っていたへたくそな(失礼) オリジナルソングの歌詞も、今思えばそれを暗示するような内容だったような気がする。
この子たちが、こんな醒めた悲しい目をして、あの邪魔すぎるスーツケースみたいな重荷を抱えなければならないなんて、あまりにも悲しく苦しい。
最後のバスでオータムがバスでうたた寝をするのだが、家を出てからスカイラーが熟睡する場面はあるのだがオータムが眠る場面は一つもなかったなと気が付き、オータムの安らかな寝顔にも複雑な思いを抱きつつ、せめて束の間だけでもゆっくり休んでほしい、と思った。
痛々しくて見ていられないような気持ちになるのだけれど、見る価値ある映画だと思う。