ファースト・カウのレビュー・感想・評価
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"Nobody"
バレるかもしれない、捕まるかもしれない、そんなハラハラする感覚は微塵もなく、ほんの一瞬のチャンスで一攫千金を掴む為に乳を搾る、静けさが漂う星空きれいな真夜中で緊張感よりも仄々とした雰囲気の中で淡々と繰り返される作業が一頭の雌牛と共に和む一時。
本作の時代設定的に例えばイニャリトゥの『レヴゥナント:蘇りし者』で描かれる罠猟師たちが勇ましく先住民と争いディカプリオは瀕死の状態でサヴァイヴする物語を頭に浮かべながら、クッキーとキング・ルーが陥ってしまう顛末に自業自得と悲観的にはなれない、二人の友情を描くにしても深い関係性には到達せず一致団結から生まれた友情と、バッドエンドながらなぜか微笑ましく和める最後に感じられる。
リリー・グラッドストーンが『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』で演じたような背景の立ち位置で、彼女の良さが際立った『ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択』はケリー・ライカートの作品としても傑作、日常に於ける生活を細かい作業として描写する演出に『ミークス・カットオフ』を奇妙な男同士の友情を描いた『オールド・ジョイ』も想起させられる本作、もちろんジャームッシュの『デッドマン』が地味に登場するノーボディにテンションは上がりながら。
牛がメインの話じゃない(笑)
かけがえのない友人に出会う奇跡と人生の賭け
2020年。ケリー・ライカート監督。西部開拓時代のオレゴン。料理人としてビーバーの狩りグループに同行してきた男は、そこで、中国人の逃亡者を助ける。やがて再会した二人は一緒に暮らし始め、ある日、地域にやってきた最初の牛を目にしたことから、危険な賭けに出ようとするという話。
周囲に蔑まれ、恵まれているとは言えない人生を送っている2人の男たち。最悪の状態で出会った2人がともに暮らすことで、一発逆転のチャンスを見出すストーリー。二人で横たわるラスト(と冒頭)があまりに切ない。
第三者に見られたり、見つけられたりすることで主要人物が画面に導入される「客観性」のある落ち着いた表現。状況のなかの個人のありようを丁寧に描いている。同じところにいても別の価値観で別の世界を生きている先住民族の描き方もそつがない。冬のオレゴンの寒さが伝わってくる。
フェ“モー”ニスト
『パーフェクト・デイズ』で寝落ちしたあなたは、本作では完落ち間違いないのでよっぽど体調がよろしい時の鑑賞をおすすめする。それぐらい眠気を誘う映画なのだ。基本台詞少な目でヒーリングな劇伴も最小限に押さえられ、かつ、本作に関しては森の中の薄暗いシーンが大変多いため、気がついたら場内が明るくなっていた、なんてことのないように十分な注意が必要な1本だ。
冒頭けたたましいエンジン音をたてながらコロラド川を上っていく一艘の貨物船。本作が『川の研究』(未見)で知られている映画監督ピーター・ハットンに捧げられていることからして、川の“商業物資の運搬”機能に着目した映画であることは何となくわかる。もう一つ、ライカートが三宅唱とのインタビューの中で語っていたのは、“過去と現在”をつなぐ時の流れという意味合も含ませたらしいのである。
犬を連れた女性が掘り起こした、仲良く寝そべったように並んでいる2体の白骨死体。そこから映画は1800年代のアメリカへ時代をいっきにさかのぼるのである。ビーバーの毛皮目当ての狩猟団で👨🍳をつとめるクッキーと、同じ目的のロシア人から命を狙われ森に逃げ込んだ中国人キング・ルーの友情物語。その背景にライカートは、スコセッシ監督『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』と同じ白人入植者の黒歴史をさりげなく描いているのである。
つまり、英国からもちこんだ血統証つきの🐮からミルクを盗んだクッキーたちと、元々自分達の土地でもない場所でビーバーを大量捕獲して毛皮をフランス貴婦人に売り付ける商人たちを、同列の“こそ泥”として描いているのだ。ビーバーの毛皮だけはいで美味しい?“しっぽ”を廃棄する白人たちに対し、紅茶用にしか使わないミルクから美味しい🍩をこさえて一儲けしたクッキーたちに文句などいえた義理じゃないでしょ、と監督はいいたいのであろう。
前作『ミークス・カットオフ』からの続きで考察するならば、キング・ルーが「まだ歴史が始まっていない」と語るこの森は、おそらく創世記に出てくるエデンのアレゴリー。“イーヴィ”の出すミルクから作り出された🍩は“知恵の実”という位置づけだろう。その知恵の実をおいしそうに食べたアダムたちは、どんな“善悪の知識”を得たのだろうか。ビーバーの毛皮にしても🍩にしても、自然からの恵みに値段をつけるという、ある種神に対する冒涜ともいえる行為をライカートはあまり快く思っていないようなのである。
やがてミルク泥がバレ、権力者たちから追われる羽目になったクッキー&ルーは、🍩や金儲けよりも大切なものに気づくのである。ウィリアム・ブレイクの詩にもうたわれたかけがえのない“友情”こそ、何物にも変えがたいものであることを知るのである。やがて川の流れとともに時が過ぎ去り後世に伝えられたのは、美味しい🍩のレシピやビーバーの毛皮で作った襟巻きなどではなく、2人の友情だけだったのである。
期待した以上の素晴らしさ
家でドーナツ作ると人魂みたいになるよね。
なぞかけだってお手の物
西部開拓時代のオレゴン州にて、アメリカンドリームを夢見る元料理人と中国人移民の危ない賭けと友情を描いた作品。
偶然出逢った2人は、仲買商が保持する"富の象徴"である牛からミルクをこっそり盗み、それで作ったドーナツが大ヒットし金を儲けるが…。
終始、ゆったりとした雰囲気で見せるドラマ作品。
美しくも鬱蒼にも見える深い自然のなかで夢見る2人の生活は、とってもスローだが不思議と見ていて飽きない。そして今更ですがドーナツって何も輪っかじゃなくても良いんですよね笑
慎ましくも、美味しそうにドーナツを食べる人々の顔を見ているとなんだかホッコリしますね♪
とは言え、盗みに変わりはないですから。見つかってからの展開は中々のヒヤヒヤもの。
そしてこう終わりますか〜。結局割り込みされまくってた彼が…といった感じなのかな。どうでも良いが彼をミスドに連れて行ってあげたい。かわいそうですもんw
とにかく、ゆったりで起伏の少ない作品だが、言葉に出来ない魅力がありとても惹き込まれた良作だった。
しかしもうちょっとテンポが良くてもよかったかな…それこそ牛歩のような展開でしたね!
………………。
…こりゃクッキーの方がうまいですね。。
勿論お菓子じゃなく、本作主人公の方です。はい。
かなり地味ですが良心的な友情ドラマでした。
SLOW
ビジュアルだったり宣伝文句がかなり良かったので、ちょっと期待して鑑賞。特典はポストカードでした。
ケリー・ライカート監督作品は初鑑賞だったので、どんな作風なのかというのは知らずに観ましたが、オープニングが異常なまでにスローだったので、これはヤバイかも…と思ったら本編もどスローすぎて申し訳ないんですが退屈でした。テンポだけでこんなに合わない作品だと思うのは久々でした。
序盤から置いてけぼりにされるのでどうしたもんかと頭を抱えていたら、その後もグダグダウダウダしながら進んでいき、画面も謎に暗いので観にくく、牛が出てきたら盛り上がるかなと思ったらそこまでで、ドーナツ作りで盛り返したと思ったら、謎な終わり方で締めてしまったので最初から最後までポカン状態でした。
ロケーションとドーナツは良かったです。正直それ以外はテンポが全て台無しにしてしまい、他のところもあまり集中して観ることができなかったのが残念です。「ショーイング・アップ」も似たような感じのテンポだったらマズいなと思ってる次第です。
鑑賞日 12/25
鑑賞時間 11:35〜13:45
座席 D-13
暗い 遅い つまらない
人はパンのみにて生くるにあらず。だからお菓子もちょっと必要🥞
西部開拓時代の映画なのに、野蛮な音はほとんどせず、木々、流れる川、草原、爬虫類や小動物、犬にネコ、雌牛の美しい目、青空と雲がひたすら映る。カメラの位置が低い時は自分が犬になった気がして背の高い草が目の前に広がった。フィルムサイズ(のことは全く知らないけれど)が映画によく合っていた。大きな大きな船が左からゆったりと右方向に川を進む最初のシーン、美しかった。
「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」を見た後にこの映画を見ることができて幸せだった。埃っぽくなく静かで、昔から代々そこに住んでいた人のように自然を知り尽くして歩いた気持ちになった、ドキドキ感と一緒に。
おまけ
リリー・グラッドストーンにまた会えて嬉しかった
秘境の秘湯につかる気持ちよさbyA24
べつに牛で繋げたわけではないが。
無限ビーバー、有限ミルク
ミルク泥棒のお話
西部開拓時代のオレゴンの山深い土地で仲買人の牛からミルクを盗み追われるアメリカ人のコックと一儲けを企む中国人移民の話。
一度観てみたかった噂のインディペンデントの名匠ケリー・ライカートの作品。
当時の雰囲気と時間の流れにうまく合わせるかのようにお話をゆっくりと進めて行き、多くのカメラを使わず、説明も少なく、登場人物や背景をじっくりと丁寧に描写していく。
今の我々からするとたかがミルク泥棒、ほんのささやかな夢のために行ったことだが、当時のこの土地では富の象徴である最初の牛から採れる貴重な食材、また別の土地で成功する事はそんなに簡単なことではなかったのだろう。
そんな事を考えながら冒頭の人骨を思い出すと、名も知れない多くの普通の人達の上に今の我々の生活があるのだろうとなどと思ってしまう。
あの人骨も彼等のものと明確に言っていないところも良い。
キングはあの後うまく逃げ切り、別の土地で成功しているのかも知れないとか想像する余地を残してくれる巧みさも伺える。
好きな人にはハマるのだろうが、ワールドマーケット向けの誰でも楽しめる作品ではないため、スピーディーな展開や刺激に慣れてしまった人達には受け入れ難い作風だと思う。
そう言う自分も他の方達のような高評価までには至らずで、大人になってからもう一度チャレンジしてみたいそんな(監督の)作品でした。
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