「行列のできるドーナツ屋たちがみる夢」ファースト・カウ humさんの映画レビュー(感想・評価)
行列のできるドーナツ屋たちがみる夢
群生するシダが左右前後にのびのびと埋め尽くす。
苔むす道なき道は川べりに続くグラス類に変わり風のざわめきで割れると、その先におだやかに流れる水を舟が渡ってくるのがみえる。
何やら珍しいものが運ばれてきたのを手作業をとめて眺める原住民たち。
ゆるりとした様子が暮らしぶりを伝えるように、オレゴンの大自然のなかで人々は物々交換をしながらのんびりと共存しており、開拓者の欲が派手に渦巻き煙り原住民を激しく支配するイメージを覆す。
時はアメリカ西部の開拓ホヤホヤ時代なのだ。
優しくのんびりやな料理人クッキーと商売気質で強気なキング•ルーがそこで出会った。
国籍も経歴も違う彼らは、夢はあるが元手がなく貧しさと孤独な境遇が共通し意気投合、2人で一獲千金を企てることに。
そしてある秘密により行列ができるドーナツ屋としてみるみる繁盛。
それがあの時岸に着いた珍しい貨物に関係し、成功と欲がさらなる運命を連れに動き出す。
人間のやりとりはほぼどの過程も淡々とし暗めの静寂で間合いが多く、時折ふと笑みがでるユーモアや一瞬で裏返るシリアスさが点在する。
自然や動物たちは常に生き生きと描かれ目が覚めるほど美しい。
それらが四角の画面に見事に凝縮され、多彩に色付き、たわわに実り、なんとも巧みな味を醸し出しながら独特な空気感のなかに〝人間たち〟を映し出す。
地球の恩恵に感謝して領域を冒さずに暮らしている間、すべての関係性はあの弦楽器の音色が自然のなかの一部であり邪魔することなく奏でるバランスだったことを感じて私はなんだか寂しい気分になった。
巨大な貨物船が巨大なビジネスを載せ、あの日と同じ川の流れに悠然と過ぎていく現代の冒頭シーンに繋がったからだ。
逃亡に疲れ果て眠りに落ちるクッキーのそばで儲けが入った巾着をじっと見るキング•ルー。
きっとこの時彼はお金では決して買えないものの価値をちょっと感じたはずだ。
頭を寄せ横たわったとき欲望のかけらがひとつ転がり落ちたのをみた気さえした。
ベリーやナッツをふたりで収穫しながら希望を膨らませ、ハコヤナギの穴に儲けを隠しわくわくした2人の日々も夢の跡。
皮肉なお伽話のようなその顛末を変わらぬ景色たちに語り草にされながら、彼らは仲良く並んでひと休みしたまま永い夢を見続ける。
ディカプリオのあの作品とは対極の味わい。
温かく哀しく深い余韻がのこる。
追加済み
おはようございます。
共感そしてコメントありがとうございます。
美しい詩情あふれる文章ですね。
2人は良い夢を見たのかも知れませんね。
監督さんの優しさをラストに思いました。
humさん、共感&コメントありがとうございます‼️
この作品、2020年にアメリカ公開されていて、当時、アメリカの映画雑誌で高評価だったので見たいなぁと思ってました。でも、日本公開は3年後‼️長かった‼️でも待った甲斐があった素敵な作品でした‼️
共感をありがとうございます
自然の美しさと、ちょっとしたことで命を落とす開拓地の現実の厳しさが共存していましたよね。素朴な友情で繋がっているほっこりな二人だけに、命の儚さに泣けました
共感ありがとうございました。
鑑賞し終えて何ヶ月か経つのですが、こうして皆さんのレビューを拝読するたびに、あの味わいが蘇ってきて、自分の中でどんどんランキングが上がっていく一本になってます。自分は、やっぱりライカート監督好きみたいです。