劇場公開日 2023年12月22日

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「生存競争における暴力表現の排除」ファースト・カウ たあちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5生存競争における暴力表現の排除

2024年1月12日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

単純

幸せ

登場人物の感情を精密に描くことで高い評価を得ている米インディペンド系作家ケリー・ライカートの作品がついに日本上陸!との惹句でジム・ジャームッシュなんかが「真の傑作」なんてコメントを寄せているものだから騙されて観た。1820年代西部開拓時代のオレゴン州でアメリカン・ドリームを求めてやってきたイタリア系と中国系移民二人の友情物語である。まず川を上ってくる大型の動力船が下手からフレームインして上手まで進んでいく(かろうじてフレームアウトはしない)長い長いFIXのファーストカットがライカート監督の名刺代わりなのだろう、このシーンを唖然と見ながら「あなたはこの映画を観る資格があるかどうか」を試されている感じがした。世界の映画人たちが絶賛しポン・ジュノが「とてつもなく、うらやましい」と言うのもさもありなん、こんなカットはどれほどの巨匠であっても商業映画では決してゆるされないからだ。西部劇と言えばカウボーイがつきものだけれど、これは今から200年前の西部に未だ牛がいなかった時代でその設定がちょっと目新しくて「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」を遡ること100年前。この地に初めてやってきた牛が原住民とうまいことやってる仲買人の富の象徴となっており、その乳を盗んでドーナツを作って売ることでわずかな金を手に入れるために命の危険にさらされる哀れな男たちの物語は「真夜中のカーボーイ」から「スケアクロウ」そして「傷だらけの天使」までをも想起させ、ちょっと身につまされるというかキュンとさせられる。青年は荒野を目指すのだ。

たあちゃん