「作品そのものよりも制作過程の方が面白すぎて、こっちの方を映像化して欲しい一作、というかシリーズ。」DAU. ナターシャ yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
作品そのものよりも制作過程の方が面白すぎて、こっちの方を映像化して欲しい一作、というかシリーズ。
膨大な参加人数と空前の撮影規模、そして15年という長・長期にわたる製作期間など、ソビエト連邦の官製映画ならともかく、現代の映画制作としてはどうかしているとしか思えないような作品、というかシリーズです。
そしてもっとも衝撃的だったのは、そんな巨大プロジェクトであるはずの本作が、これ以上ないほどミニマムな物語だったこと!平凡な食堂のウェイトレスが、外国人科学者を巡る政府の陰謀に巻き込まれて…、という、ポリティカル・サスペンス的な物語の筋(しかしそれもせいぜい導入部分)があるにはあるけど、普通なら30分で語れそうなところ、140分という長尺を掛けている上に、乱痴気パーティーの一件やウェイトレス二人でくだを巻いているところなど、何でこんなに時間をかける必要があるのかと悩むことしばしば。ポンポさんなら激怒すること間違いなし!もっとも撮影が『ファニーゲーム』(1997)のユルゲン・ユルゲスだから、観客目線で撮影するとか、最初から考えていないのかも。
本作は「ダウ・プロジェクト」で制作された13本の映像作品の一つということで、一応物理学者レフ・ランダウの半生を描く、という全体を通じたテーマがあるみたいだけど、本作では何か怪しげな研究所で奇妙な実験をしている場面が少し出る程度。これがどのように全体のテーマと関連してくるのか、ほとんど手掛かりらしいものがありません。
公式サイトの内容もなかなかの面白さ。共同監督のエカテリーナ・エルテリは「「DAU」プロジェクト参加者すべての等身大シリコンフィギュアを作成した」そうだけど、何でだよ!という言葉しか思い浮かばない。今後も続々シリーズが公開されるとか(自分たちで「狂気のプロジェクト」とか言っちゃってる!)。日本の配給会社と観客が監督の野望にどこまで付いてこられるのかが最大の見所かも。
一万人を超えるキャストは撮影中常時監視カメラと盗聴マイクで厳しく管理されていたとか、パリのプレミア上映では劇場映画というよりもインスタレーションとして発表されたとか、撮影延期と再撮影を繰り返す監督に出資者が激怒したとか(当たり前…)、そもそもプロジェクトの出資元が良く分からないとか、撮影終了後に一時フルジャノフスキー監督が行方不明になったとか、それどころか不審死した関係者がいるかも、とか、撮影現場に入るのに入国審査が必要だったとか、知れば知るほど興味と突っ込みどころが続々と湧いてくるダウ・プロジェクト。ぜひその制作過程をドキュメンタリー作品として公開して欲しい!