「見ていて悲しくなるドキュメンタリー」なぜ君は総理大臣になれないのか yoneさんの映画レビュー(感想・評価)
見ていて悲しくなるドキュメンタリー
最初は結構退屈なのかな?と思ってたけど、終わってみると120分間を感じさせない、すごく面白いドキュメンタリーだった。
一人の政治家の悪戦苦闘を通して、日本政治の闇を映し出す。その試みは成功。これでもか、ってくらい暴き出されている。
小川淳也という政治家は名前は見たことあったけど記憶に残ってはいなかった。
その小川氏が主人公。初当選した2003年の32歳から、一応今年2020年まで追っている。
結構家族がよく出てくる。
奥さんと二人の娘さん。両親も選挙協力してる。
2003年当時は5〜6歳だった娘さんが、最後は高校卒業して選挙の手伝いをするくらい大きくなっている。レビューを見ると、その家族のドタバタに感動した、みたいのが散見されたが、個人的にはそこに感動はない。というか、むしろおかしい。
そもそも、なぜこんなに家族の協力がないと選挙活動ができないのか?
それが問われるべきだ。
まるで、地盤のない一般人は家族のリソースでなんとかしろ、と言われているようだ。
今のコロナ禍の対策も同じ構図。政府は要請だけして補償はしない。何もしない。他国と比較してこれだけ感染者(陽性者)数が少ないのは、PCR検査をやらなかったことで可視化されなかっただけ。国民がマスクや手洗いを頑張ったという要因もあるだろうが、これとて結局は自助努力。党派関係なく、政治活動することを社会システムとして援助しない。介護問題も同じ。
日本の問題は、どこを切っても金太郎飴だ。
小川氏は多少年上とはいえ、だいたい同じくらいの年代。政治に対する問題意識も一緒。なので、すごく共感できた。正義感もあって真面目・誠実である。しかし、作品中に何回も「政治家に向いていないのでは?」と監督に問われていた。これは「政治家=強(したた)か」という前提。たしかに小川氏に強かさはない。しかし、今の政治家は強かなだけで理想も理念もない。自分の保身にしか興味がない。小池百合子の「希望の党」騒動などはその典型。安倍晋三は言うまでもない。その前提で、小川氏は「政治家に向いてないのでは?」と問われる。
これは本末転倒だ。
本来政治家ってそういう存在だったか?
小川氏のように、理念を持ってそれを実現するための仕事ではないのか?
(強かさもその理念を実現するための必要条件でしかなかったはずだが、監督は十分条件と考えているのか?まぁ、小川氏はその必要な強かさがないので総理大臣には向いてないのかも・・1政治家としては何も問題ない)
二人の娘さんが強くたくましく成長しているのは見ていて勇気付けられたが、この二人が言ってた「政治家にはなりたくない」「政治家の妻にもなりたくない」という言葉が、まさに今の政治を象徴的に現しているように思えた。政治家は、小川氏のような若い人が、使命感をもってやりがいを感じつつできる仕事になっていない。その子供(若者)もそう思えない。政治に興味もない。それどころか、社会にも興味がない。結果、国会は爺さんばかりの老人ホームと化す。一体誰を代表しているのだろうか?
日本は、当たり前のように地域新聞社オーナーの身内が選挙に出て、誌面で応援する国だ。そのトップであるはずの総理大臣は、国会で意味のない質疑応答をして自分の責任から逃げ続け、このコロナ禍でも臨時国会さえ開かず、会見すら行わない(まぁ、メディアは政権ベッタリの政府広報でしかないが。。)。小川氏の奮闘にではなく、その奮闘により暴き出される現実(事実)の醜悪さや理念を持ち続けることの空しさ・徒労感が、見ていて本当に悲しくなってきた。
「この国には何でもある。だが、希望だけがない」。
村上龍が「希望の国のエクソダス」でそう語ったのは20年前だが、現在は20年前と比較しても、本当に希望がなくなっている。その希望の無さが、この映画に通奏低音のように流れている。
その現実の悲しさを実感するためにも、また、定点観測のためにも、この映画は今見ておくべきだ。5年後、10年後にはもっと酷くなるのだから。