「『偽りなき者』に通じる様々な立場の人が滲ませる苦悩が印象的、ベッソン風味が欠片もない実に分厚い人間ドラマ」潜水艦クルスクの生存者たち よねさんの映画レビュー(感想・評価)
『偽りなき者』に通じる様々な立場の人が滲ませる苦悩が印象的、ベッソン風味が欠片もない実に分厚い人間ドラマ
冒頭にドンとリュック・ベッソンプレゼンツと出ますが、どこにもベッソン臭がない作品。搭載した魚雷の異常を知った乗組員が爆発を回避するために魚雷の先行発射を進言するも上官が即座に却下したことで北極海の海底に沈んだクルスク。焦燥に駆られながらも静かに救助を待つ乗組員、設備の老朽化と整備不良で救助活動が思うようにいかないロシア海軍。軍事演習の様子を注視している中で異変を察知する英国海軍、沈没したという事実しか知らされないことに怒りを露わにする乗組員の家族達。様々な立場の人々が何とか事態を収拾しようと試みるものの、そこに立ち塞がるのは軍事機密と国家の威信を守ることに固執するロシア海軍上層部。この辺りの描写はまさに今ロシアによるウクライナ侵略の報道の背景にあるものと全く同じ者。幾重にも重なるドラマに様々な心情をガッツリ滲ませる作風は『偽りなき者』のそれに酷似していて、冒頭にある軽快なやりとりが回収される終幕に号泣させられました。
マックス・フォン・シドーが出ているのであれっ?と思いましたが、実は2016年製作で海外での一般公開は2018年のもの。それを敢えてこの時期に配給したキノシネマに惜しみない拍手を送りたいです。
ちなみにメタリカのある曲が流れるシーンがあるのですが、その曲も何気に終盤の伏線になっています。ラーズ・ウルリッヒへの謝辞がエンドロールにあったのも見逃しませんでした。
上映館が少なく観に行きづらいですが、今まさに観るべき作品です。
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