「いかにもヤングアダルトな世界観にウェスタンとSWが塗り込められた微笑ましい思春期SF」カオス・ウォーキング よねさんの映画レビュー(感想・評価)
いかにもヤングアダルトな世界観にウェスタンとSWが塗り込められた微笑ましい思春期SF
西暦2257年、地球を旅立った人類は2つの太陽を持つ惑星ニュー・ワールドに入植し西部開拓時代のような生活を送っていた。不思議なことにここは考えていることや妄想や想像、寝ている間に見ている夢までが“ノイズ”と呼ばれる現象で可視化される世界。入植者達の村プレンティスタウンでは先住民であるスパックルとの戦いで女性達は皆殺しにされ男達だけの社会となっていた。村の青年トッドはある日近くの森に宇宙船が墜落しているところを発見、唯一の生存者ヴァイオラと遭遇する。初めて女性と出会ったトッドは彼女に好意を抱くが、“ノイズ”を発しない彼女が何を考えているかが全く解らず戸惑う。一方村の首長であるプレンティスとその部下達はヴァイオラを捕獲しようとつけ狙っておりトッドはヴァイオラを連れて村を脱出、ヴァイオラが母艦に救援信号を送るための施設を目指すが、やがてトッドは自分に知らされていなかったニュー・ワールドの秘密を知ることになる。
太陽が2つあるので夜がないなど星野之宣のSF漫画『2001夜物語』のような世界観ですが、原作はパトリック・ネスのSF小説『混沌(カオス)の叫び』3部作の第1部『心のナイフ』ということで冒頭に現れる“ノイズとはフィルターなしの人間の思想であり、フィルターがなければ男はただ混沌の中を歩いているようなものだ。“という言葉がさりげなく醸している通り、観ているこっちが恥ずかしくなるくらいのヤングアダルト風味。こっちの考えていることが相手にバレバレなのに、あの子の気持ちはさっぱり解らない世界って思春期にいる男子のモヤモヤはグローバルスタンダードなんだなとオッサン目線でニヤニヤしてしまいます。ニュー・ワールドといいながらそこにある風景はウェスタンなので入植者がわざわざ馬を地球から連れてきているという設定も微笑ましい。そんなアナクロな世界で俄然存在感をギラつかせているのがプレンティスを演じるマッツ・ミケルセン。どんな作品でも個性を滲ませる名優なので軽薄になりそうな作品をビシッと引き締めています。
主演のトム・ホランドにはBTTFの頃のマイケル・J・フォックスのような初々しさがあって印象的ですが、とにかく素晴らしかったのはヴァイオラを演じたデイジー・リドリー。SWのレイの印象を打ち消すためか髪をブロンドにしていますが、終盤の風景はEP7とEP8となぜかEP5とEP6を足して500でようなものなので、レイにナウシカが憑依したかのような美しさで、EP7〜EP9では絶妙に抑制が効いていたツンデレが全開になった感あり。とにかく眼福でした。
あと何げにサウンドトラックのオーケストラが豪勢。エンドロールによるとブダペスト・スコアリング・オーケストラによる演奏とのこと。その辺もSWっぽさを醸している一因かと思いました。