劇場公開日 2020年12月25日

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「ドキュメンタリーだけに許されるドラマ」GOGO(ゴゴ) 94歳の小学生 スイゴウたんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5ドキュメンタリーだけに許されるドラマ

2021年1月7日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

まず、この作品が事前台本無しの純然たるドキュメンタリーだということを確認しておきたい。私にはちょっと信じ難いけど、あるがままを撮影したらこんな物語になってしまった、という事実こそが、本作の最大の価値でしょう。
ネタバレは避けるが、作品で語られるあれこれは、「こんなベタなエピソードはないよ」と思わせるほどドラマに満ちている。事実は小説より奇という手垢のついた言葉は、まさにこういう作品のためにあるとしか言いようがない。

主人公のゴゴおばあちゃんは、決して教養があるわけでも、頭脳明晰なわけでもない。それは作品の最後で劇的(!)に登場して観客を驚愕と感動に誘うのだが、当の本人にはそれは大して重要じゃない。ただ学びたい。そしてそうする事が大切だと(特に若い女性に)伝えたい。その純粋な思いが、彼女を特別な存在にしていて、観客の心を鷲掴みにしてしまう。月並みですが、彼女に人間としての魅力にあふれているのです。算数の問題に見事正答して、たぶん作品中唯一カメラ目線を送ってくれるカットを筆頭に、学習で人生を楽しみたいという彼女の姿勢があちこちに登場して、それを見るだけで充分に楽しめる。実際、喜びを知る彼女の瞳の美しさは、他のどんな女優もかなわない。
一方で、齢94という老い、そしてたとえ小学校であっても学問の難しさは、ゴゴに様々な試練を与える。とりわけ、ゴゴの孫くらいの先生の教え方が容赦なくて、ゴゴには失礼ながら、大丈夫かなと心配してしまう。また、彼女の瞳そのものが作品の大きな転機になるとは、制作スタッフ自身がもっとも驚いたはず。そこから始まるクライマックスのドラマは、純粋に美しく、感動した。

ゴゴのお世話係的なひ孫の女の子の視点が、とても優しいのが印象的。この地では老人は敬うべき存在であり、ゴゴはそれに値する人物だと、このひ孫さんの振る舞いを見ていると自然に納得できる。厳しい担当教師、そして校長先生、果ては寄宿舎を作る大工さんたちも、みんなゴゴをよく理解した上で、尊敬しているのが良い。寄宿舎の落成式で、関係者一同の前でゴゴが胸を張るシーンは、本作の大きな山場。
ケニアの教育事情の困難さについては、ここで触れるのは失礼だと思う。ただ、ゴゴがそれをずっと意識して小学校に通っていた事は、本作のテーマとして忘れてはいけないだろう。それでも、修学旅行がマサイマラ1週間というスケールの大きさは、ちょっと羨ましい(それがゴゴにとって村を出る初めての経験だった事も重要)。94歳で1週間の旅行に向かう、ゴゴの行動力にも感服。マサイ族との交流の場面は、互いの敬意が画面から溢れてきて感動的だった。あと、義務教育修了には試験合格が必要(しかも1教科2時間)という、一見厳しいケニアの制度は、見方を変えると、きちんと学んでくださいという姿勢の現れでもあり、興味深かった。
音声のクリアさは、本当に現地一発収録かと疑ってしまいそう。マサイマラの夜の場面なんか、ぞくぞくしてしまう。BGMが思いっきり西洋音楽なのがちょっと興醒めだけど、何度か挿入される現地の歌声の見事さが、それを補ってあまりある。五線譜で書いた曲は下手なのに、自分たちの曲になると見事なポリフォニーを響かせる子供たちが印象的。凄まじい才能。

94歳のおばあちゃんが、バイクの後ろに跨って寄宿舎から自分の家に帰ってくる。その元気なお姿! そしてその時秘めていた思いの深さ! それだけでも、本作は映画として十分すぎる価値を持つ。と同時に、今でも1億人を超える少女たちが、満足な教育の機会を与えられていないという事実も、作品は私たちに突きつける。現実だからこそ許される「出来すぎた」ドラマに、ただ圧倒されました、

スイゴウたん