劇場公開日 2020年9月19日

  • 予告編を見る

「水中をゆく魂の浮遊のようなカメラの動きに陶酔感すら覚える」セノーテ 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0水中をゆく魂の浮遊のようなカメラの動きに陶酔感すら覚える

2020年9月17日
PCから投稿

とても不思議な、現実なのか幻なのかわからぬ夢を見ているようだった。これはドキュメンタリーというよりは一つの映像詩と呼ぶべきものかもしれない。かつてマヤ文明の時代より地域住民たちの貴重な水源だった洞窟の泉(セノーテ)。元々は隕石が衝突した後にできたものらしいが、人々は生贄をささげながらこの聖なる場所を大切に受け継いできた。その生贄が深く深く水中に沈んでいく先に、黄泉があり、“あの世”があるのだという。本作の監督は自ら泉に潜ってカメラを回し、天上から光や水滴が注ぐ幻想的な光景を克明に映し出す。これらにあどけない少女たちの言葉が重なると、一連の映像がさながら“魂のさまよい”のように思えてくる。と同時に本作は、マヤの古典的な詩や演劇のテキストを用いることで、この地の歴史や文化に深く寄り添い、その精神性の内部へと深く深く潜りこんでいく試みでもあるのだろう。全く新しい“語り”の手法がそこには存在した。

コメントする
牛津厚信