劇場公開日 2020年6月26日

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「あの女性は今どうしているのだろうか」ハニーランド 永遠の谷 カールⅢ世さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5あの女性は今どうしているのだろうか

2020年7月9日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

彼女は蜂にも人にも優しい。しかし、そんな彼女も年老いた母親の世話をするときは、イライラが出てしまって、厳しい。目も耳も不自由で、寝たきりの母と二人きり。こんな自然豊かなところでも、都会の砂漠でも、介護のつらさは一緒なんだなぁと。暗い洞窟のような石を積み上げた山の家は小さな明かり取りがあるだけで、虫の羽音が常に聞こえる。蜂かと思っていたら、ハエのようだ。衛生状態も良くない。首都の町の市場で天然の無添加蜂蜜を売り、そのお金で、毛染めクリームを買った時に、扇子をおまけでもらった時の嬉しそうな笑顔が忘れられない。もともと、母親のためにハエ避け目的で買おうとしたものだ。まず、母親の毛を染めてあげる。次に自分。寝たきりの母親に手伝ってよと話しかける。無理だよ、と母親が返す。そんな暮らしであるが、母親との朴訥な会話のやり取りを聞いていると、彼女の置かれている現状が身にしみて来て、心配で辛くなる。二人きりの親子の最後は突然やって来たかのようだが、実際はだんだん弱って行く母親を世話をしながら、ひとり取り残される寂しさと闘いながらである。
トルコ人の家族と一緒に聴いたトランジスタラジオをつけて、「お母さん聴こえる?」って家の外から言っても、返事がない。夜、明かり取りの窓から漏れる蝋燭の光と嗚咽。とうとう、ひとりになってしまった。それでもまた、彼女は切り立った崖に登り、蜂蜜を取りに行く。
 キャンピングカーで越してきた牛の放牧を生業とするトルコ人の家族の子供に接する彼女も優しかった。養蜂を彼女から教わり、良く理解して、師匠と弟子のようについてきた子もいなくなってしまった。「あんたみたいな息子がいたらね」という彼女には諦めの表情もとくに浮かぶ訳でもない。静かで、聡明な彼女は今どうしているのだろうか。

カールⅢ世
CBさんのコメント
2020年12月25日

このレビュー、いいですね。じんわり、涙。

CB