「胸が熱くなるファンタジー」宇宙でいちばんあかるい屋根 R41さんの映画レビュー(感想・評価)
胸が熱くなるファンタジー
勝手な想像だが、作者は自分自身の過去を振り返り、当時の自分に言ってあげたかったことをこの作品を通して表現したのかなと感じた。
物語としての辻褄合わせのような種明かしも含まれてはいるが、ファンタジーである以上理由の深堀は必要ないかなと思った。
高校生の娘大石ツバメと妊娠中の母という画の違和感の正体。
なぜツバメが書道教室に通っているのかという謎。
星婆という存在に感じる秘密。
臨月の時期に起きた奇跡。「君の名は」でいうところの「誰そ彼時」ということだろうか。
鳥はツバメにとって自由の存在。鳥の名前を持つ水墨画作家「ヒバリ」
勇気を出して母の絵を見に出かけたツバメは、3羽のツバメの絵に本当の家族の姿を重ね合わせるが、10年前に描いたその絵のモデルは「ヤマガミ家」を描いた3羽だった。そして母はツバメに気づかなかった。
やがて訪れるだろう家族の中での疎外感がツバメの中に広がる。また孤独になるのか、それともそれは巣立ちの時期を暗示しているのか。
星婆は言う「年を取ったら何でもできるようになる」
星婆の言葉は悩める青春時代を過ごしてきた作家と似たように悩める娘たちに向けた「メッセージ」
それをファンタジーとして描き出した作品。
「後悔は行動してからしろ」
「後悔は、時間がたてば大きくなる」
屋上に置かれていたスクーターは星婆が孫のために買ったものだろう。
最後に孫に会えたのは、星婆の喜びだったが、本当はもう少し長くいたかったのだろう。
本当はいい子のマコトのことがどうしても気がかりだったのか。彼と少し付き合っていたのと、臨月の母という「誰そ彼時」の条件を持ったツバメの力を借りて彼女の前に現れたと想像した。
「屋根を見ればどんな人間かわかる」 ちょっと良くわからない言葉。
屋根とは頭上にあるもの。スピリチュアル的にそこにあるのは真我。それを天から実際に見ているのが星婆ということだろうか?
星婆の教えに従って自分自身の内面と対峙してきたツバメは、2020年に水墨画家になる。つまり物語のほとんどが2005年の出来事だ。
アレンジを加えて色が乗った水墨画。あの「ねずみ」の絵から見れば相当な成長だ。
その絵を見る書道の先生がいるが、ツバメも家族も登場しない。
それはきっと、高校時代のツバメと同年代の娘たちの「成功」を願っているから。
だからあの水墨画展に立っているのは、成功した将来の「私」。つまり視聴者自身だ。
先生が見た最後の絵 公園にいる二人が屋根を見下ろしている光景。おそらくその絵のタイトルがこの作品のタイトルなのだろう。
多感な時期に悩んでいる青春時代の若者。
些細な勇気で乗り越えられるたくさんのことがある。
糸電話の糸はない方がよかったように思う。物理的な意味で。
でも基本的にあるのが作家から多感な青春時代を過ごしている若者への純粋なメッセージだ。
良い作品だった。