「過ぎゆく時間の中に光る一抹の喜劇と悲劇」佐々木、イン、マイマイン ao-kさんの映画レビュー(感想・評価)
過ぎゆく時間の中に光る一抹の喜劇と悲劇
この気持ちをどう表現したら良いのだろう。映画の中の物語だというのに、自分事のように思えてしまう。勿論、佐々木に会ったことはないが、確かにウチの学校にも佐々木のような奴がいた、佐々木たちとこんな風に騒いだという世界観や空気感は他人事とは思えない雰囲気を醸し出し、観客の心にじわじわと染み込んでいく。
ただ悪戯に時間を持て余していたあの頃を振り返る本作は、楽しかった青春時代の1ページを綴る訳でも、その時代を懐かしむ訳でもない。ただ、今も昔も同じように時間は流れ、その中で人は、何かに気付き成長していくその様を描く。足の踏み場のないほど物が散乱した佐々木の家での無意味な会話の数々にどれほど深い意味があったのかと時間が経ってから理解していく主人公の姿に観客も共感するかもしれないし、もしかしたら、主人公が見つけられなかった別の感情に辿り着くかもしれない。
語弊を恐れずに言えば、本作は観る者の人生経験によって大きく受け止め方が変わる作品である。だからと言って、嫌厭しないでほしい。なぜなら、本作には悪戯に過ぎていく時間の中に光る一抹の喜劇や悲劇が見事に描かれているからだ。映画のような劇的な人生などあり得ないが、一見退屈に思える人生の中にも喜劇や悲劇は普遍的に潜んでいる。そのことが最も象徴的に描かれたのがカラオケボックスから出てくる夜明けのシーンの美しさにあったと私は思う。そして、それを布石として迎えるラストシーンの見事さは何たるや。
監督の内山拓也は本作が長編デビューらしいが、本作を観るにこれからの活躍が楽しみで仕方がない。藤原季節、細川岳、萩原みのり、そして河合憂実といった若手俳優たちの演技の素晴らしさを含めて、今観るべき一本である。