「感情描写が拙く、惜しい作品」泣きたい私は猫をかぶる 百乃木さんの映画レビュー(感想・評価)
感情描写が拙く、惜しい作品
ストーリーは、視聴者を置いてきぼりにしないよう分かりやすく作ってあったと思います。
昨今は制作者の「見せたい」気持ちばかりが先走り、「見やすさ」を蔑ろにした無駄に難解な作品も多い中、いい意味でシンプルな作品に出会えました。この作品は、流れや目的がハッキリしています。
ただ、問題はキャラクターの描写です。
正直自分の目から見て、なんじゃこりゃ? と思うような行動や発言が多々ありました。キャラクターの人間味が薄く、登場人物のほぼ全員が無神経で薄っぺらく感じます。
◎主人公のムゲの、日之出に対するイタズラ(公衆の面前で「日之出サンライズアタック」と言ってお尻にお尻をぶつける)の度が過ぎていることの気持ち悪さ
◎しかも上記のイタズラは、猫に変身したムゲが日之出と関わることで好意を拗らせた末の行動という不気味さ
(日之出は猫の正体がムゲだと知らないので、相当に不気味だったはず……)
◎このままじゃダメだと一念発起して書いたムゲのラブレターが、クラスのクズ男子に奪われその場で音読された際、日之出はその内容に対してノーリアクションで誤魔化すこともできたろうに、ギャラリーやクズ男子が見ている前で「俺は恥ずかしい」「大嫌いだ」と大声でエグい公開処刑を行った無神経さ
(ここは本当に冷めました)
◎そんな酷すぎる無神経極まりない公開処刑をされたにも関わらず、一ミリも変わらない好意を日之出に向け続けるムゲの違和感
(もはや恋愛というより依存では……?)
◎家出したムゲの情報を聞きに学校に出向いた父の再婚相手(新妻)が、教師が目の前にいる状況で確信もないのに「あなた娘と付き合ってるって聞いたけど、あなたのところに行ってない?」と日之出に問い出したという空気の読めなさ
◎新妻と前妻が言い争って殴り合い掴み合いに発展したシーンで、そんな姿を見たらショックを受けそうなムゲが「あちゃー」といった感じの軽い反応しかしなかったことの意味不明さ
(しかもシリアスな展開のはずなのにコミカルなBGMが流れていたあたり、女性どうしの争いをバカにするような制作側の意図を感じて萎えました)
◎EDにて、ムゲがラブレターを音読したクズ男子に普通に挨拶していたことに驚愕
(あんなことされたらトラウマになって卒業後も恨まれてもおかしくないのに、早々に許しただけでなく、自分から挨拶するってのはどう考えてもおかしい……)
などなど、登場人物たちのメンタリティに対して疑問点やツッコミどころが満載。
それに加え、主人公のムゲが日之出を好きになり始めたキッカケが一切描かれていないこと、日之出がムゲに惚れた理由が浅く感じることなどが、人物描写の薄っぺらさに拍車をかけています。
あと、猫のお面屋ですが、あれはいったい何だったんですかね……? ただ単にそういう職業ってだけだったんでしょうか? それとも、何かのキッカケでお面の力を手に入れたんでしょうか?
その点をもっと詳しく描写していれば、物語に深みが出たんじゃないかなと思います。
お面屋の正体をいろいろ予想しながら見ていたため、そこは特に何も補足がなくてちょっとガッカリでしたね……
お面屋もかつては人間で、他の人間から人のお面を奪わないと人間の姿に戻れない(だからムゲを甘い言葉で必死に騙した)みたいな設定の方が面白かったのでは?
ムゲのお面を被って偽ムゲになったのが、新妻の飼い猫のきなこって……そこは絶対お面屋だと思ったのに。何でだ。
作画は最初から最後までとても綺麗でブレがなく、演出もよかったです。それだけに、上記の難点が痛いんですよね……ほんと惜しい作品だなと感じました。
ただ、アニメ作品にありがちな「無意味な性的誇張」や「過剰なキャラ萌え要素」もなく、純粋にいい物語を作ろうという気概を感じて好感の持てる作品ではありました。
この制作陣なら、ちょっと工夫すれば世界でも勝負できる作品が作れるんじゃないかという期待はあります。