劇場公開日 2021年7月2日

「ないものねだりをしても仕方ない」ジャニス・ジョプリン Imperatorさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0ないものねだりをしても仕方ない

2021年7月6日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

「ミュージカル」と銘打っているが、歌があるだけで、演劇ではないので、ミュージカルとは言えない作品である。
一番の感想は、「知識がなくて、ついていけない」だった。
“黒人女性歌手の歴史”どころか、ジャニス・ジョプリンすら、名前しか知らなかった自分にとっては、難しかった。
この映画に合わせて、慌てて少し予習したが、歯が立たなかった。

“ジャニス”役のデイビスの他に、4人のボーカルが出演する。
彼女たちはバックコーラスだけでなく、ザ・シャンテルズというユニットや、A.フランクリン、E.ジェイムス、オデッタ、N.シモン、B.スミスという5人の黒人女性歌手の“レジェンド”に扮して、“ジャニス”と時空を超えた“夢の共演”をするという設定である。
そして、“ジャニス”は歌の合閒に、“レジェンド”たちへのリスペクトや想いを、延々と語り続けるのだ。

確かに、例えば1曲目の「テル・ママ」はE.ジェイムス、2曲目の「Maybe」はザ・シャンテルズの持ち歌らしく、関係は深い。
しかし、“レジェンド”たちについて、何も知らない自分は、何を語られても、さっぱり分からないのである。
また、A.フランクリンと共演させたいからといって、A.フランクリンの歌を持ち出すというのは、無理矢理すぎる。
“ジャニス”を見に来たのに、ジャニス色がかなり薄い作品になってしまい、ガッカリであった。

また、“ないものねだり”をしても仕方ないが、“ジャニス”役のデイビスは、やはりジャニス・ジョプリンではない。
残念なのは、声が強すぎることだ。
ジャニス・ジョプリンは声量は大きかったらしいが、ふくよかなハスキー・ボイスで、“シャウト”するととても良い味わいが出る。そこが、ジャニスを不滅のシンガーにした、一つの魅力だと想う。
一方、デイビスが“シャウト”すると、単調でうるさいのだ。

演奏は、ドラム、キーボード、ギター・ベース3人、管楽器3人の構成に見えた。
ブルース、ソウル、ロック、カントリーと、極めて短い音楽人生で、いろんなジャンルの歌を残しているジャニスだが、この編成ですべて対応できていた。
ただ、残念なのは、演奏がきれいで洗練されすぎていることだ。60年代を思わせる、ノリが良くて、暑苦しくて、危うい感じの演奏ではない。
演奏だけ見れば、「ブロードウェイ」の世界であって、全然ジャニス・ジョプリンっぽくない。

というわけで、いろんな意味で、期待を大幅に下回った作品だった。
しかし、不世出の歌手のコンサートを実現しようというのが、そもそも無理な話だ。“ないものねだり”をしても仕方ない。
自分としては、この映画を機会に、ジャニスや“黒人女性歌手の歴史”に触れることができたので、その点だけは良かった。

Imperator
Imperatorさんのコメント
2021年7月9日

コメントありがとうございます。
自分が新宿で観た時は、若い人はあまりいなくて、(自分も若くはないですが(笑))お年を召された方が多く、びっくりしました。
ジャニスの場合は、単なる新しもの好きというよりは、皆さんそれぞれで観る動機があるのかもしれません。

Imperator
Yoichi Uenoさんのコメント
2021年7月8日

参考になりました。自分もジャニスは渡辺美里がファンだっということから気にかけていたのですが、まだ聞いたことがなく。私も調査してみようかと思います。

Yoichi Ueno