劇場公開日 2020年9月11日

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「離れるほどに輝きを増す」チィファの手紙 ao-kさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0離れるほどに輝きを増す

2020年9月13日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

ラストシーン、カメラがゆっくりとズームアウトする。このまま映画が終わらないでほしいと願う私の希望も虚しく、スクリーンは暗転し、エンドクレジットが流れる。次の瞬間、涙が止めどもなく溢れ出した。やがて劇場内に照明が灯る。夢のような映画の時間がいつしか終わってしまうように、無限に思えた青春時代もいつの間にか終わりを告げる。

中学時代の学生たちの未来には無限の可能性が広がっていた。夢や目標がなくても、何者にもなれる可能性を秘めていた。それから30年が経ち、思い描いた未来を手に入れられただろうか?あの時の輝きや希望は残っているのだろうか?この作品には根っからの悪人は出てこない。けれども、追い求めていたものと違う人生を歩んでいる時に、人はどう折り合いを見出していくのか?誰もが持つその人生の不器用さが終始心に突き刺さる。

青春時代という言葉があるが、その意味を知るのはその時代を過ぎてからではないだろうか。学校を卒業し、大人になり、ふと自分の過去を振り返り、あれが青春だったのだと気づく。初恋が成就しようとしまいと、その想いは記憶の中で美化され、永遠となってその輝きを増す。その輝きは時に現在の自分の足元に大きな影を生み出し、時に希望となって闇を照らす光と化す。

物語の後半、登場人物たちが人生の答え合わせかのような行動をするが、それは単なる自己満足の辻褄合わせなのかもしれない。それがどちらであっても構わない。その行為こそが彼らの人生の次なる一歩を踏み出すために必要なプロセスであると理解できる。封筒に残された最後の手紙の意味を、それぞれの登場人物たちがどのように受け止めたのかは観る者に解釈を委ねるところだろう。だが、少なくとも私には眩い過去に囚われた人々が、その眩い過去に背中を押されて進み始めたように見えた。それでも、時々はまた振り返ってしまうのだろう。たとえ背を向けたとしても、視界に入り込んでくるほどの輝きがその過去にはある。年齢を重ねて、その年代から離れれば、離れるほど、青春時代はその輝きを増すばかりだ。

Ao-aO