「世界中のキム・ボラのための物語」はちどり(2018) マツドンさんの映画レビュー(感想・評価)
世界中のキム・ボラのための物語
人は、他者からのまなざしで
自分を意味づける。
だから、だれともつながれないウニは
自分の事が好きになれない。
自分の中に、ただむやみに広がる空洞をかかえる。
ようやくつながれたヨンジ先生をも失うことは
永遠に消えない喪失感を刻み付ける。
先生との関係は突然断たれ、この映画は唐突に終わる。
ある意味、救いのない物語でもある。
だけれど、ウニにかけられる言葉が優しい。
「自分を好きになるには、時間がかかると思う」
ヨンジ先生のこの言葉は
キム・ボラ監督が、12歳だった時の自分に向けた言葉に違いない。
そして、その言葉を発したヨンジ先生は
自分のことを好きになっていく過程でもがく監督自身である
と受け止めることもできる。
監督がウニに向けるまなざしは、
すなわち、12歳の自身に向けるまなざし、でもある。
そのまなざしによって、12歳のキム・ボラは意味づけられ
そして、現在のキム・ボラ自身が意味づけられる。
そのまなざしは、限りなく優しい。
ゆっくり、ゆっくり自分を好きになればいいんだよ。
自分自身を大切にしなきゃダメじゃない、 と。
そのまなざしが、この物語を救いのあるものにしている。
キム・ボラ自身のために、この映画は必要だったのだ。
そして、世界中のキム・ボラたちのために
この映画は、存在しなければならないのだ。
コメントする