劇場公開日 2020年6月20日

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「「あり得た自分」」はちどり(2018) andhyphenさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0「あり得た自分」

2020年8月27日
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鑑賞方法:映画館

南海キャンディーズの山里亮太氏が奥さんの蒼井優さんと観に行ったらハマれなかった映画「はちどり」。ようやく鑑賞。
1994年のソウルが舞台。監督のキム・ボラは私と同年であり、監督の分身たる主人公ウニも当然の如く、過去の私と同年代である。
キム・ウニの疎外感と鬱屈に共感できるかどうかで評価が変わるのかもしれない。私はウニを「あり得た自分」としてずっと観ていた。
日本と韓国ではやはり社会事情も少し違う。さり気なくも明らかな家父長制と男尊女卑、超学歴社会。期待へのストレスから妹を殴る兄。毎夜出かける姉。「82年生まれ、キム・ジヨン」を思い出した。ウニはキム・ジヨンと同年代である。
恐らく94年当時の私よりウニは抑圧されていて、その分行動も派手だ。でも彼女の鬱屈が手に取るように分かる。ただただままならないのだ。家族も、恋人も、友達も、おまけに自分の身体さえも。そしてそれをどうにかする方法も知らない。なんとなく反抗して。
彼女がヨンジ先生に惹かれるのは、先生が教え導く存在だからではなくて、同じ「ままならなさ」を感じ取ったからだと思う。
1994年の実際の出来事も巧みに取り込まれている。北朝鮮の金日成国家主席が亡くなり、そして聖水(ソンス)大橋崩落事故が起こる。前者はウニにとってどこか他人事だが、後者は大きく深い衝撃を与える。
母の表情、父と兄の号泣、大喧嘩の後の小康状態。唐突に見えてリアル。家族全員どこかで抑圧されている、という生々しさ。
そして映画として、どのカットも美しかった。あの繊細なカットの積み重ねが映画の力だと思えた。全ての画に意味がある。
大きな物語の起伏がない上にやや長尺なので、確かに退屈と思われる側面もありそうだけれど、どのシーンも目が離せない映画だった。

andhyphen