「【”本心を分かって貰える友人はいますか・・。” ”そして、様々な経験をして幾つかの”しこり”をゆっくりと取り除いていく。” 移ろいゆく少女の心の機微を、静やかなトーンで描き出した作品。】」はちどり(2018) NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”本心を分かって貰える友人はいますか・・。” ”そして、様々な経験をして幾つかの”しこり”をゆっくりと取り除いていく。” 移ろいゆく少女の心の機微を、静やかなトーンで描き出した作品。】
ー時代は1994年。ソウル市内の中学2年生である、ウニの不安で儚げな表情が実に魅力的な作品。-
◆下記、作品内容に少し触れています。
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■今作の魅力は数知れず
1.韓国映画の魅力である、過剰な演出を一切排したが故に醸し出される、昭和30年代の優れた邦画を想起させる、佳き風合。
2.1994年という時代設定。
・徐々に韓国経済が衰退していく時期である・・・。
・”ソンス大橋崩落事故”がそれを暗示しているようでもあるし、今作でも重要な位置づけとなる”事件”として描かれる。
(但し、崩落の瞬間などは描かれず、当時のニュース映像が使われるのみ。)
3.ウニの家族が、諍いを繰り返しながらも、家族5人で食卓を囲む風景が何度も映し出される所。(会話は余りないが・・・)
-韓国語の原題は”はちどり”であるが、英語のタイトルは”House of Hummingbird"である。-
4.ウニの恋人や親友、ウニを慕う後輩との移ろいゆく関係性の描き方。
5.親友に裏切られ、意気消沈するウニを、少しぶっきらぼうだが、優しく労わる漢文塾のヨンジ先生。彼女が淹れてくれるウーロン茶をウニが飲むシーン。
ーそして、ヨンジ先生がウニにかける言葉が心に響く。”(男性に)殴られているだけでは、駄目・・。”-
6.ウニの耳の下部に出来た”シコリ”と彼女の心の”しこり”
-手術で”しこり”を取り除いたウニの表情・・。-
7.謎の多いヨンジ先生は、ソウル大生であり、
(明示されないが、後半ウニが”愚かしくも脆い優秀な兄、”女性に手を上げるとは何事か!”:私は、勝手に当時の韓国とダブらせて観ている。”が訪問したソウル大の写真を見て、口にする・・。)
”事情があり”長く休学している。
そして、郊外の工場前の”横断幕”の前を、ヨンジ先生とウニが二人並んで歩くシーン。
その後、”ソンス大橋崩落事故”の後、破れた横断幕が映されるシーン。
-上手いなあ・・。ヨンジ先生の”幾つかの描かれない事情”が容易に予測出来る・・。-
8.ヨンジ先生から届けられた、貸してあったスタンダールの「赤と黒」と真っ新な”スケッチブック”をウニが開けるシーン。
<ウニが”様々な経験”をする中で、将来が見えず、不安で儚げだった表情から、ヨンジ先生から贈られたスケッチブックにより”ある夢”を言葉にする表情が、明らかに変わったように見えた作品。
韓国映画らしからぬ、随所で挿入される、数々の静的シーンの美しさに魅入られた作品でもある。>
「赤と黒」のお返しのスケッチブックはCroquis(フランス語)。このクロッキーって、速写、油絵や彫刻などをする前の「下書き」や「習作」用で、紙が薄いヤツなんですが、「学んでね」とか「経験が将来輝くための訓練になるよ」とか。先生からの、そんなメッセージだったと思うんです。この件に欧州的なものを感じました!
「赤と黒」も、何かを示唆してるのかなぁ、と考えたんですが未だに分かりませんw