「監督の個人的体験と先進的なフェミニズム思想が融合した傑作」はちどり(2018) せき(名前変えました)さんの映画レビュー(感想・評価)
監督の個人的体験と先進的なフェミニズム思想が融合した傑作
🚨キム・ボラ監督があまりに素敵な方だったので、ぜひ舞台挨拶レポート(一番下)からご覧ください!
韓国映画界の新星、キム・ボラ監督の長編デビュー作は、
思春期の女の子の喜び・葛藤・苦しみがすべて、
リアルな息遣いと共に伝わってくる一作でした!
1994年の韓国を舞台に、家庭内外で孤独を抱えている14歳の少女ウニが、
女性教師のヨンジと出会い、彼女に導かれるように変化していく姿を描きます。
過剰な演出に頼らず、あくまで少女の個人的体験として語られる本作は、
ミニマルな作りでありながら、旧来の社会が抱える様々な問題をはっきりと浮かび上がらせ、
それらは現在でも完全に解消した訳ではないことを、改めて実感させてくれます。
子どもにプレッシャーをかけ続ける父、
その重圧からウニに八つ当たりする兄など、
家父長制度の弊害を提示するとともに、
この2人が家族の前で弱みをさらすシーンを加えることで、
このように生きる選択しかできなかった彼らにも同情させられてしまいます。
一方家族外には、親友やボーイフレンド、慕ってくれる後輩を持つウニですが、
その誰もが、彼女を本質的には孤独から救えていない点も非常にリアル。
そんな状況で出会った教師のヨンジに導かれ、
「現実を生きる意味」や「世界との関わり方」を学んでいくウニがラストに見せる、
ささやかながら決定的な内面の変化に、ぜひご注目ください。
本作のストーリーは、難解な韓国映画として名高い『バーニング』以上に余白を残す仕上がりとなっており、
一見すると淡白な印象を受けるかもしれません。
しかし、本作のこのような構成には、
見た観客がそれぞれの経験に照らし合わせ、ウニの心情に思いを巡らせてほしいという、
監督のメッセージが込められているように感じました。
個人的には、これから何度も見返し、
一つ一つのシーンの意味を噛み締めたくなるような、本当に素敵な作品でした!
年々、世界市場でも存在感を増している韓国映画に、新たな傑作として加わったこの作品。
日本でも「はちどり団」と呼ばれる本作のファンが増え続け、
長く語り継がれる一作になることを願ってやみません。
辛く苦しい現実を乗り越えようと、救いを探し求めている現代人のアナタにオススメ!
【監督の舞台挨拶レポート】
⚠️以下は個人的なメモからの抜粋であり、監督の言葉を再現するものではありません。
⚠️劇場スタッフの方に了承を得て掲載しています。
本作はフェミニズム映画として言及される機会が多いが、あくまで監督の経験に基づいたパーソナルな作品。
〇〇イズムをテーマに据えて作品を撮ると、どうしてもプロパガンダ的な内容になってしまうので、監督自身は意識的に避けるようにしている。
男性監督が撮る思春期の女の子は、
可愛い、何も考えていない、彼氏の話しかしない、彼氏持ちの友達に嫉妬する、というものばかり。
そのようなメディアが作り上げた女性像ではなく、深みのあるリアルな人物造形にこだわった。
家父長制度が抑圧的な世界を形成する一因になっているのは確かだが、男性たちを糾弾する映画にはしたくなかった。
このような厳しい世界で、「どのように生きれば良いのか」「どうしたら人を愛せるようになるのか」
といったことを表現したかった。
作品のテーマは、「世界は不思議で美しい」。
人生には苦痛も伴うが、総合的に見れば美しいものであり、生きることには確かに意味があると信じている。
本作の製作過程で、「一族の恥部をさらす親不孝者」として家族から非難を浴びて悩むこともあったが、
監督にとっては、作品を完成させること自体が心の救済につながった。
現在は、家族とのコミニュケーションも取り戻せている。
作中のヨンジ先生のような優れた人と多く出会って、コミニュケーションに喜びを感じることができた。
憎しみを残さず、許しを与える映画にこそ、普遍的な価値が宿ると考えている。
以上になります。分かりにくい箇所などあれば、コメントでお知らせください。