劇場公開日 2021年4月2日

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「ヒロインを粗末に扱いすぎる」裏アカ 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

2.0ヒロインを粗末に扱いすぎる

2021年4月8日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 タイトルの「裏アカ」から連想していた通り、ネット弱者がSNSで自身を晒すような投稿をして、悪意のある人間からリアルの世界で痛めつけられる作品である。SNSに投稿することは世界中に大声でさけぶのと一緒であることに気付かないからこういうことになる。あるいは自分が窮地に陥るかもしれないスリルを、どこかで楽しんでいるのかもしれない。
 アパレル業界に疎いのでリアル店舗の店長がどれだけの社会的評価を受けているのか定かでないが、人材募集の会社によると三十代の女性は一番人気で初任給も高いらしい。中学生や高校生のときに二十一世紀を迎えた世代であり、パソコンやネットのスキルが高く、しかも現実的な物の見方が出来るとのことだ。
 本作品の主人公伊藤真知子はまさにその世代だが、会議での発言に見られるように精神年齢が幼い。アパレルのテーマが「本当の自分とは」というのが笑える。この台詞を言ったときの瀧内公美の演技がとてつもなく下手で、よく監督がOKを出したものだと思った。それ以外のシーンは、精神年齢が幼いまま三十代になってしまった女性の葛藤と迂闊さを上手く演じていただけにちょっと残念だ。
 セックスで精神的に満たされるためには互いの信頼関係の他に、互いに尊敬できる何かが必要だ。行きずりのセックスで得られるものはいっときのオルガスムスしかない。会いたいと思う気持ちが恋で、恋のゴールがセックスで、その後共に暮らすためには体の相性の他に忍耐力がいる。忍耐力のもとになるのは相手に対する尊敬だ。尊敬できる人だから我慢できる。尊敬がなくなったら愛は終わるのだ。
 とてもわかりやすい図式である。学校で教えたいくらいであるが、既に財津和夫がチューリップ時代に作った「青春の影」の歌詞で歌っている。
 ♬恋の喜びは愛の厳しさへのかけはしにすぎない♬
 いまどきの女性はとうの昔にこんなことは知っていると思っている。誰も満たされないままに生きていくのだ。本当の自分などない。いま生きている自分が存在するだけだ。
 本作品は昭和以前のノリである。ヒロインを粗末に扱いすぎる。おまけに展開は遅いし無駄なアップは多いしで、全体としてのテンポの悪さに呆れた。ラストは殆ど中二病である。この作品を製作した動機が理解できなかった。

耶馬英彦