劇場公開日 2020年3月21日

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「よく分からない」春を告げる町 Imperatorさんの映画レビュー(感想・評価)

2.5よく分からない

2020年3月22日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

よく分からない映画だった。

広野町は、一時は全町避難したものの、他の周辺地域と比較すると「復興」しているようだ。
人が戻ってきて、学校には子どもも多くいるようだが、人口の半数は原発事故関係に従事する人らしい。

高校の演劇部の生徒たち。若い5人家族。米作の農家。仮設住宅に住んでいた老人たち。祭りの再興をもくろむ町役場と、否定的な村落の人々。福島以外から来た建設関係の男たち。
いろいろな人が出てくる。
しかし、各々が別々の人生を歩んでいるだけであり、「いくつもの時間が交差し、重なりあい」(公式ホームページ)ということは全くない。
むしろ編集によって、脈略もなく混ぜるので、“交差”というよりは散発的で、まとまりのないまま終わっている。

上記の人々が、事故前は何をやっていたか、避難生活はどうだったのか、戻ってきた後、どこまで取り戻せた結果として、この作品中の姿になっているのかという、“背景”の情報が乏しい。
生活風景など、日本ならどこも似たり寄ったりだ。そんな映像を見せられても、「だから何?」と思ってしまう。
優れたドキュメンタリーなら持っているはずの、対象に“肉薄”して、個別事情をあぶり出すものがない。

また、最も長尺を割いて、メインテーマと言える演劇部の描写も、ポイントが分からない。
高校生が、「復興って何?」というテーマで、仲間と衝突しながら舞台作品を作り上げている。
しかし、具体的に何をやろうとして何が問題なのか、自分は観ていて理解できず、いくら観ても、「演劇部が頑張っているな」程度の感想しか持てなかった。
その他、いまだに帰宅困難な富岡町を、唐突に映す意味も謎である。

「復興」の一つの姿を映すための、“素材”としては面白い。
「仮設住宅の方が、便利だし友達もいて良かった」と語る老人たちには、少し驚かされた。
何気ない日常への復帰が真の「復興」だということだろうが、しかし、それらの“素材”の描き方において浅薄だと言わざるを得ない。

Imperator