「過去と現在の交錯する瞬間がとても心地よい」アンティークの祝祭 ぐうたらさんの映画レビュー(感想・評価)
過去と現在の交錯する瞬間がとても心地よい
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カメラのフレームにその品々が映り込むだけで、なんとも言えぬ気品と拡張高さが香る。思えば、アンティークは味わい深い造形や芸術性を持つと同時に、一つ一つが主旋律とは違った“時の流れ”と“記憶”を持つ。とすれば、無数のアンティークに囲まれた部屋は、さながら時と記憶の迷宮のようなもの。カトリーヌ・ドヌーヴ演じるヒロインもまた、心の中で過去と現実を行きつ戻りつさせながら静かに毎日を重ねているわけで、こうして軽やかに同調していく語り口が心地よく胸に沁み渡る。
本作でもう一つ特徴的なのは、ありきたりなフラッシュバックを用いないという点だろう。両者の境目は極めて曖昧でシームレス。こういった記憶の混濁にうろたえることなく、常に堂々としているドヌーヴがまた素敵だ。幻想的なラストの受け止め方は様々だろうが、私にはまるでアンティークに仕掛けられたイリュージョンを目の当たりにするかのような祝祭的な感慨が広がった。
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