「吐き出さずにはいられなくて…」MOTHER マザー 夏木さんの映画レビュー(感想・評価)
吐き出さずにはいられなくて…
16歳の高校男子を持つ親ですが、鑑賞から3日たっても、衝撃的なシーンが心から離れなくて…。
長めの髪の周平の風貌が、どうにも我が子と重なり、序盤の小学生時代から涙していました。
彼の周囲の大人が、秋子ではなく、周平を見てくれていたら…。何度もあったタイミングを、なぜどうにもできなかったのか…。
周平が発した「学校行きたいんだけど」「もう止めようよ」を、なぜ救ってあげられなかったのか。
そんな理不尽を、違う、と感じていても、違う行動をするすべを持たなかった周平。
妹をとても大事に思っていた優しい彼が、あまりにも残忍な事件を起こす。
心を決めるまでの長い長い橋のうえ。
心を決めた彼に、罪悪感は無かったと思う。
そうしなければ、母親は生きていけない。そうしなければ、妹は死んでしまう。
でもどうしても、そのシーンが頭から離れない。
チャイムを鳴らして家に上げてもらってから、ほんの数分ある会話。
「妹。かわいいよ。今度会ってよ」
と、言ったのは、油断させるためなのか、本心なのか。
機を伺ってソワソワする彼になにかを気づいて声をかける祖父。
瞬間。
瞬間だ。
心に決めていないと、絶対に出来ない。
そんなスピードで、一瞬で。
その一瞬の彼に、迷いなどない。
そのことが、その手の感触が、今後の彼の人生にどれだけのことを残すのだろうかと想像したら、涙が止まらなかった。
それでも母親を好きだと言う彼に、本当はどうしたら良かったのか、その答えを大人は持ち合わせていない。
17歳男子は、親の言うことなんてなにも聞いちゃいないし、親がやれと言ったことはだいたいやらない。
そんな世の中で、彼は、母親の言うことをすべて聞いて生きていた。
母親がすべてだった。
周平が、秋子に「え?」と聞き返すシーンがいくつかあるが、リアルそのものだ。
なんどか試みた小さな反抗を握りつぶされる度に、彼の自我が消えていく気がした。
そうするしかなかった、のだ。
そうするしかなかった、から、と言われても、受け入れられないあのシーンの衝撃。
反芻しては落ち込むのに、何度も反芻してしまうあのシーンに、観ることを後悔した映画でした。
(すごく良かったんだけど…ね…)