「傍観するコディペンデンシー」MOTHER マザー 野々原 ポコタさんの映画レビュー(感想・評価)
傍観するコディペンデンシー
作家性が強くって鑑賞者がフォーカスを絞りづらい
作品が近年、大森監督は続きましたが
河村光庸プロデューサーの方向性と
相性が良かったのでしょう。
シンプルかつ深い作品になっていると思いました。
自然界では環境に応じて繁殖におよびます。
でも環境が一変してしまった際には
母体が産んだばかりの幼体や卵細胞を
母体自身が生命維持のために摂取したりします。
細胞分裂して種を増やしたと思ったら
母体がさらなる活動のために
切り離した細胞を再度
取り込んだりすることもあります。
〈感情と思考を持っているのが人間です〉
ですのでこれらのケースを
人間に当てはめるのもどうかと思いましたが
一度“倫理観”を取り払わなければ
わたしは感想が思い浮かびませんでした。
そのぐらい見過ごせない、傍観できない作品でした。
〈社会というコロニーを形成しているのが人間です〉
多様な考え方のある社会のなかで
小さなコロニーが家族です。
家族にはいろんなかたちがあります。
家事と稼ぎ。役割の分担。共存と依存…
そしてひとつの家族は
ほかの家族を寄せ付けない雰囲気、
頼れない感じもあります。排他と自立…
個人に対しては好意的に接しようと思っても
その個人が身を寄せているコミュニティまでも
好意的に接しようとしたら、いろいろと面倒になって
結局傍観してやり過ごし
付き合いやすいコミュニティとだけ接するでしょう。
そこを自分の居場所と決めて…
〈限られた世界のなかで自分の居場所をつくる〉
わたしも両親の愛情を知らずに育ちましたが
代わりに血の繋がりにも負けない家族が
わたしを支えてくれて、愛情を注いでくれて
わたしの居場所をつくってくれました。
それでも記憶の薄れた両親の面影を
知らず知らずのうちに追ってしまいます。
今でも。
なかなか映画好きの方にしか触手が伸びない
辛辣な題材の作品ですが、観てほしい。
そして考える時間をわずかでも持ってほしい。
この作品で唯一の光、
夏帆さん演じる〈亜矢〉の存在があってこそ
この映画は救いあるべき作品だと思いました。