「愛とはなにかを訴えかけられた作品」MOTHER マザー chimakoさんの映画レビュー(感想・評価)
愛とはなにかを訴えかけられた作品
冒頭のシーンの秋子が、苛められて帰ってきた周平の膝の傷を舐めるシーンで、鳥肌が立った。
「この子は私の子ども」というセリフは、母親なら1度は思うものだと思うが、異常なまでの支配欲を感じた。あんな目を向けられたらすぐに逃げたくなる。まさに洗脳。
シリアスな作風にある、音(BGM)が殆どなく進むやつ。でも、これは私が観てきたどの作品とも違う空気感だった。「リアル」という3文字では到底表すことができない。
最初から最後まで秋子は「女」だと感じた。
ラブホテルに泊まり、周平が寝ている隣で男に求め続けるシーンは、耐えられなくなった周平がバスタブの中で寝るのが見ていて凄く辛かった 。親が女である所に気づくというのは子どもにとっては辛い。
秋子はずっと、ほぼ母親の目をしていなかった。でも途中に出てくるじゃがいもを剥くシーンは、「あぁ、少しは料理とかしていたんだろうな」と思った。あそこだけは少し、母親だった気がする。
1人目の男に逃げられるときの、必死の懇願は痛々しかった。きっと彼女も愛されたいのだろうなと思った。でも、それは愛じゃない。
それ以降も結局、環境は変えられない。
でも、唯一救いの手を差し伸べようと頑張っていた児童相談所の職員の亜矢は、
周平をフリースクールに行かせてあげたり、絵本を差し入れしたり…と優しさを感じた。
周平は最後まで「お母さんが好き」と言った。こんなに重い「好き」を聞いたことがない。
秋子は「私が産んだ子、私の分身。舐めるように育ててきた」と言った。
まさに、周平の世界はすべて秋子で染まっていた。共依存の恐ろしさ、そして私のまだ薄い人生の中での「愛とはなにか」という疑問は解けそうにない。歪んでも愛と言えば愛だ。すごく苦しかった。決して、忘れてはいけないことが増えた。
追記:長澤まさみは女優業20周年に相応しい役だったと思う。彼女が出演していなければ、最後まで見られなかった。
目の動き、声の出し方、すべてが焼き付いた。素晴らしかった。